地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2010年9月のコラム

 

後期高齢者医療と自治体の使命

辻山 幸宣

 

 8月20日、厚労省に設置されている高齢者医療制度改革会議が「高齢者のための新たな医療制度」に関する中間とりまとめを発表した。政権交代に伴って「後期高齢者医療制度は廃止する」(09マニフェスト)方針を具体化することを目標にしたものだ。同会議は岩村正彦氏(東大)を座長に、高齢・退職者団体連合、健保協会、医師会、後期高齢者医療広域連合協議会の代表などのほか有識者で構成され、新たな高齢者医療制度のデザインを検討するために設置された。

 検討に当たって、長沼厚生労働大臣から示されたデザインは次の6つの原則である。

 ① 後期高齢者医療制度は廃止する。

 ② マニフェストで掲げている「地域保険としての一元的運用」の第一段階として、高齢者のための新たな制度を構築する。

 ③ 後期高齢者医療制度の年齢で区分するという問題を解消する制度とする。

 ④ 市町村国保などの負担増に十分配慮する。

 ⑤ 高齢者の保険料が急に増加したり、不公平なものにならないようにする。

 ⑥ 市町村国保の広域化につながる見直しを行う。

 さて、中間とりまとめでは、75歳以上の高齢者を別立てにしている現行制度を廃止し「地域保険は国保に一元化」する、その際、早期に全年齢を対象とした都道府県単位化を図ることとし、当面「都道府県単位の運営主体」で行うこととした。この意味はきわめてわかりにくい。「都道府県単位の運営」にかかる制度は65歳からとするか、75歳からとするかペンディングである。市町村との関係でも、「都道府県単位の運営主体」が定める標準保険料率を基に、市町村ごとに「都道府県単位の運営主体」に納付するということだ。年齢を75歳以上とし、「都道府県単位の運営主体」を広域連合としたならば現行制度と変わるところがないのではないか。少なくとも地方公共団体たる都道府県がどこにも登場していないのが特徴である。

 後期高齢者広域連合が設立された2008年、私は、都道府県改革に関する小論で次のように述べた。「国民健康保険の維持に汲々とする市町村がいわば『お手上げ状態』になっての後期高齢者医療制度を都道府県が『補完』することこそ漂流する都道府県政へのひとつの回答だったはずである。なぜ、それを市町村共同処理としての『広域連合』に担当させたのか。(中略)都道府県サイドの抵抗が相当に強いものであったことが想像できる。もしそうであったとするならば、後期高齢者は市町村からも都道府県からも『厄介者扱い』されたことになる(「都道府県改革の視点 ― 都道府県の役割を確立する」月刊自治研2008年6月号)。都道府県が自治法上、「広域にわたるもの」「一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの」(他に連絡調整)を処理するとされていることから、都道府県が市町村国保の「補完」をするのは理に適っていると考えたからである。

 だが、もうひとつの理屈が存在する。それは道州制との関連だ。次の叙述を見て欲しい。「市町村単位では財政的に負担しきれないなら、なぜ都道府県単位にしなかったのだろうか。一つ考えられるのが道州制との関連である。都道府県を第2次の地方分権改革で道州制に統合する場合

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、医療関係もそこに移行するのは難があるた

め、都道府県単位での広域連合で再編整理したいという意向は、02年の『坂口プラン』(当時、厚生労働大臣)でも色濃く出ていた」(増子忠道・東京都保健医療福祉協議会議長「高齢者医療はどうあるべきか ― 後期高齢者医療制度批判」世界、2008年2月号、傍点筆者)。

ここで、医療関係を都道府県にもたせておくと道州への移行に「難がある」のはいかなる事情か不明である。また「坂口プラン」も確認できない。しかし、都道府県に事務配分することを避けるかのように「都道府県単位の運営」(これなら現在の後期高齢者医療広域連合も含まれる)という用語を使っている。「地域主権改革大綱」にそって、地方行財政検討会議が「自治体間連携・道州制」を検討することになっているが、「連携」・「道州制」の前に、それぞれの自治体が何をなすべきかについても原則を示すような議論をして欲しいものだ。

(つじやま たかのぶ  公益財団法人地方自治総合研究所所長)