2010年2月のコラム
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「国と地方の協議の場に関する法律案(仮称)」によせて |
鳩山政権は、今次の通常国会提出予定法案として、「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案(仮称)」と「国と地方の協議の場に関する法律案(仮称)」を決定している(第11回内閣府政策会議。本年1月13日)。前者は、「地域主権改革を総合的かつ計画的に推進するため、内閣府本府に地域主権戦略会議を設置するとともに、地方公共団体に対する事務処理の方法の義務付けを規定している関係法律を改正する等、所要の措置を講ずる。」ための法案であると説明されている。後者は、「地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関する国と地方の調整を通じ、地方公共団体の自主性・
自立性を確保するため、国と地方が協議を行う場を設けるための所要の法整備を行う。」(前掲内閣府政策会議・資料)ためであるとしている。 真の地方自治を実現していくための次のステップは、地方公共団体が地域の だからこそこれまでの「地方分権改革」が霞ヶ関中心になりがちな「霞ヶ関からの分権」改革であり、未完に終わったのである。さらに「自治基本法」制定の構想も取りざたされていることなどを考えると、当然その内容は、「協議の場」等においても検討すべきであり、今後この「協議の場」の役割はますます大きくなる。 しかし、「協議の場」において検討される課題が具体化されるには、なおしばらく日時を要することとなる。それ故その間われわれは、日常的に自治の拡充のための努力を重ねていく必要があることをも忘れてはならない。 このような想いを特に強く抱いたのには理由がある。不十分とはいえ鳴り物入りで成立した地方分権一括法ではあったが、成立後は、その熱気も薄れ、初心を忘れたかのような法令の改正が平然と行われている例があるからである。例えば、法定受託事務の新規設定などがそれである。 当研究所は現在、地方分権一括法の成立過程、それにより改編されて誕生した現行地方自治法、その後の同法の今日までの改正(2009年4月現在)を含めて検討し、既刊の『逐条 地方自治法Ⅰ~Ⅴ』全5巻の別巻として現行地方自治法の改正経緯の逐条研究の発刊作業を進めており、数ヶ月以内には上梓できる運びとなっている。この過程で常に気になったことの一つは、法定受託事務の新規設定の仕方であった。 地方分権一括法案が衆議院において審議された過程で法案の附則が修正され、法定受託事務の新設抑制と必要に応じた見直しが追加されたことは記憶に新しい(附則250条。なお、その他地方財源の充実確保 ― 同251条、医療保険・年金改革に伴う事務処理体制・職員のあり方に関する検討 ― 同252条)。そして法定受託事務は当初、法律単位で192本であったが、その後の12年間に228本(’10年1月現在)と36本増加し、この間廃止されたもの13本を差し引いても、23本も増加している。しかも、その多くが議員立法なのである。地方分権改革論議の過程で何をもって法定受託事務というか、そのメルクマールがいろいろな観点から議論されて整理され、それを法定すべきとの意見もあったが、結局残念ながら法律には明記されず、第1次地方分権推進計画に記載するにとどめられた。しかし、新規に創設される法定受託事務は、法定されなかったとはいえ、地方自治拡充の観点からすれば、議員立法を行う国会においても、法案の原案を作成する行政においても、地方分権推進計画に掲げられたメルクマールに照らしてその可否を検討すべきであり、また、当然地方との協議が行われてしかるべきであったと思われるが、それも十分行われた形跡が無い。他方、地方の側にも問題がある。知事会・議長会等地方団体の連合組織は、地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、内閣や国会に意見の申出や意見書の提出ができることとされているのであるから(自治法263条の3)、法定受託事務として受け入れられるかどうか、監視と何らかのチェックを行うべきであったと思われる。 結局、このような問題が起こるのも地方分権推進委員会が解散した後、自治拡充の観点からの監視やチェックを行う制度的体制を講じなかったことにあったと考えられる。今後このような轍を二度と踏むことの無いような制度改正を期待したい。 |
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(さとう ひでたけ 早稲田大学法学学術院教授) |
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