地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2009年4月のコラム

閉鎖的行政官僚制の改革

 政府の国家公務員法改正案など関連法案が、3月31日閣議決定され、ようやく国会に提出されることとなった。本法案は、国家公務員制度改革基本法によって示された国家公務員制度改革の基本方針(同法第二章)を具体化するための関係法令の改正法案である。

 縦割り行政の弊を排するために国家公務員の幹部人事を一元的に管理する「内閣人事局」の創設、採用区分を問わない「幹部候補育成課程」や「幹部職員の公募制」の導入などによる人材の発掘と育成、戦略的政策立案や行政運営を可能にするための「国家戦略スタッフ」(首相の補佐)、「政務スタッフ」(各閣僚の補佐)の設置などが盛り込まれ、天下り規制を行うことを意図して昨年末に発足した「官民人材交流センター」などの運用とあいまって、今後の国家公務員制度改革の根幹をなす内容を含んでいる。

 ただ、「内閣人事局」をめぐる関係府省と人事院の対立で注目を集めている中央人事行政機関改革問題や改革の目玉の一つとして喧伝されているキャリア制度の見直しなどの陰に隠れて忘れられがちな論点の一つとして官民の人材交流問題がある。公務員の中途採用による優れた人材の発掘と官民交流による人材の育成、官・民のノウハウの相互摂取、「官の常識」は「民の非常識」とならないための交流であり、国民の目線に立った行政運営ができる公務員の育成のためである。公務員制度という制度あるいは「官僚文化」による閉鎖性の打破の問題でもある。

 このことは、公務員制度改革の課題として、かねてから再三指摘されてきたところである。たとえば、近くは公務員制度調査会意見(’97.11)、同答申(’99.3)などによる提言がそれである。そこで、たしかに’98年3月「公務の活性化のために民間の人材を採用する場合の特例」(人事院規則1-24)が定められて、国家公務員の中途採用が行われるようになり、’99年12月には、「国と民間企業との間の人事交流に関する法律」が制定されて、官民交流の法的整備が講じられた。その後’00年11月には、「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」(「一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律」は、’97年6月制定。)が制定されている。

 しかし、その成果は、必ずしも十分に挙がっているとは言えない。民間から国への職員の受け入れ状況は、’07年8月現在、在籍総数2,639人(人事院・総務省資料。以下同じ。)。うち①一定期間、民間企業等から国家公務員として受け入れている者1,813人(うち、民間企業の従業員、弁護士、公認会計士及び大学教授等から1,073人、非特定独立行政法人、公益法人、学校等から740人)、②期間を限らずに、民間経験や専門能力等に着目して、国家公務員として受け入れられている者826人に過ぎないのである。

 これを制度別にみると、「国家公務員法」に基づく選考採用(いわゆる中途採用)1,224人、「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」に基づく者688人、「国と民間企業との間の人事交流に関する法律」(官民交流法と略)に基づく交流採用者で在籍中の者88人(同法施行の’00年から’08年までの採用総数は346人)、「一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律」に基づく者で在籍中の者67人、非常勤職員572人となっている。

 逆に国家公務員を民間へ派遣する場合の制度は、官民交流法であるが、同法に基づき国家公務員が民間に派遣されてきた交流派遣者の総数は、同法施行以来9年間にわずかに108人である。

 今回の改革と係わる「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」報告書(’08.2)は、その不十分さを認識して改めて中途採用と官民交流の促進について提言しており、国家公務員制度改革基本法第7条も「官民の人材交流の推進」を掲げている。

  一方で、公務員の役割・使命を果たすに必要な公務員制度の基本的特性に留意しつつ、他方で、人材確保、人材の育成、公務員の意識改革を図るために、公務員制度の閉鎖性をいかに打破していくかは重大な課題である。公務員制度の閉鎖性の改革は、「公務員制度」が社会から過度に「自立化」ないし「遊離」しすぎること、あるいはこの不況の中にあって倒産の心配もなく、しかも「身分は保障されている」という「浮世離れした世界」とイメージしている国民の危惧への回答でもあり、国民の信頼回復のきざはしでもある。

さとう ひでたけ・早稲田大学法学学術院教授)