2008年5月のコラム
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ラウンダバウト(roundabout) |
武藤 博己 |
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ラウンダバウトとは、イギリスやヨーロッパ大陸に遍在する円形の交差点である。日本には、ロータリーと呼ばれる円形交差点がわずかに存在する。日本のロータリーは、道路が交差する場所において、効率的な交通の処理という観点から設置されるというよりも、交差点の中心にある樹木や設置物を避けて、交通の流れを作るという消極的な観点から、設置された交差点が多いと感じられる。日本のロータリーはともかくとして、イギリスのラウンダバウトについて考えてみたい。 ラウンダバウトが最初に設置されたのは、1901年のパリの凱旋門の交差点であり、その後1904年にニューヨークのコロンブス・サークルに作られ、イギリスでは1909年に田園都市として知られるレッチワースに作られたといわれている(http://en.wikipedia.org/wiki/Roundabout)。しかしながら、これらは現代的なラウンダバウトについての記述であり、馬車時代にその先駆的な形態があったのではないかと考えている。 その理由は、ラウンダバウトの最大のメリットは、平面交差において、信号機がなくても、一定の交通量以下であれば、安全かつ効率的に交通を処理できるからである。現在のような信号機は1920年に発明され、設置されたのはそれ以降のことである。自動車の普及がラウンダバウトや信号機の普及を促したことは事実であろうが、信号機がなくても機能するというラウンダバウトのメリットは馬車時代にこそ求められたのではないかと思う。 馬車時代はイギリスや西ヨーロッパに長く、またラウンダバウトが同じイギリスや西ヨーロッパに多いことを考えると、ラウンダバウトの始まりは馬車時代ではないかと考えられる。あくまで推測であるが、一定量の馬車交通があり、交差点における交通の処理という近代的な課題が認識されないかぎり、ラウンダバウトという交差点形式は生まれないと考えられるからである。すなわち、自動車よりも迅速な動きができない馬車時代にこそ、信号機がなくても機能する平面交差として、ラウンダバウトが生まれたのではないかと考えられる。 ところで、ラウンダバウトの通行方法であるが、イギリスの場合、日本と同じように自動車は左側通行であるから、上からみると時計回りで交差点に入る。交差点に入る前に、右方向からの車両を確認し、それがなければ交差点内に入ることができ、右方向から車両が来る場合、一時停止してその車両の通過を待ってから、交差点に入る。いわゆる「右優先」のルールとなっている。右側から来る車両に対する視認性が高いという理由で、右優先のルールが作られたと考えられるが、右側通行のフランスでも同じ「右優先」のルールがあるので、これも単なる推測にすぎない。 小さなラウンダバウトで、直進する2台の車が対向する方向から同時にラウンダバウトに接近した場合、徐行しながら両車とも進行できる。ところが、対抗車が右折のウィンカーを点滅させている場合には、右優先ルールから、対抗車である右折車が優先されることになる。ここが通常の十字路との大きな違いとなる。観察している限りでは、3台同時に接近した場合など、どの車が優先されるのか、瞬時にわからず、譲り合ってしまう場合も少なくない。 ここで説明しているルールは、あくまでイギリスのルールであって、フランスでは異なる場合が多い。右側通行で右優先となると、どういうことになるか、考えてみてほしい。大陸のラウンダバウトについては、別の機会に譲ることにしたい。 ラウンダバウトのメリットとして、安全性があげられている。ラウンダバウトに変更した交差点について、それ以前とそれ以降の事故を比較すると、自動車の衝突事故は40パーセント少なく、負傷事故は80パーセント少なく、死傷事故は90パーセント少ないという。 デメリットとしては、十字交差点よりも広い土地が必要であること、自転車や歩行者には優しくないこと、一定の交通量を超えると処理能力が低下すること、などを指摘することができる。 最後に、マジック・ラウンダバウトという実験的なラウンダバウトについて、話しておきたい。ロンドン北部のヘメル・ヘンプステッドという町に1973年に設置された5差路のラウンダバウトであるが、小さなラウンダバウトが5つ連続して設置されている大きなラウンダバウトである。通常のラウンダバウトは時計回りしかできないが、ここでは逆時計回りに進むことが可能となる。しかしながら、各ラウンダバウトでは右優先のルールは維持されているので、それぞれに右方向の確認が必要なため、それほどスムーズに進めるというわけではない。イギリスのラウンダバウトに関心があれば、是非、珍しいものを経験するという感覚で訪ねてみてほしい。 |
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(むとう ひろみ・法政大学政策創造研究科教授) |
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