2006年12月のコラム
市場化テストと総合評価 |
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先の国会で「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年6月2日法律第51号、略称「公共サービス改革法」)が制定され、国の機関ではハローワークなどで「市場化テスト」が動き出そうとしている。自治体では大阪府や足立区、佐賀県などで取り組みが始められている。ところで、われわれは昨年来、京都市職が設けた公契約研究会で、行政サービスへの市場原理導入に関連して、自治体の事業に関わる契約のあり方について議論をしてきた。その最初の問題意識は、入札制度において価格要素のみで評価することが、際限のない価格引き下げ競争を助長する傾向が見られること、そのことは公共サービスを担う労働者の労働条件の引き下げと、その結果としての公共サービスの質の劣化を生み出し、市民に損害を与えているのではないか、というところにあった。この公共サービスの質の劣化については、稲沢克裕関西学院大教授がイギリスのサッチャー改革での「強制入札制度」の効果について指摘している(『世界』06年6月号など)。 われわれの作業は、武藤博己法政大教授が「入札改革」(岩波新書)で提唱した「総合評価」システムをより広く展開することを目指すものでもある。既に京都市役所は、大阪府や大阪市とならんで、2004年度から市の工事契約において一般競争入札に総合評価制度を導入し、また電子入札も取り入れている。この制度のリファインを提案するものでもある。 このため、昨年の秋には武藤さんの講演と大谷強関西学院大教授、京都市の山田哲士調度課長、大阪市地域就労支援センター長の富田一幸さん、前自治労本部公共民間協議会の小畑精武さんによるシンポジウムを開催した(詳細は京都自治総研「地方自治京都フォーラム」第95号、06年冬号で紹介している)。このほど、「指定管理者基本条例改正案」と広く業務委託など民間委託に関わる「公契約の基準に関する基本条例案」としてまとめた。(条例案はホームページ「地方財政情報館」(http://www.zaiseijoho.com)にアップしている。)すなわち、「公の施設」の管理と、「業務請負」に関わる二つの領域で「公的な契約」に、価格以外の総合評価基準を導入することを目指している。 ここでは、議論の過程で明らかになってきたいくつかの論点を紹介しておきたい。 第一には、「公共サービスの品質の引き上げとコストの引き下げの両立」が、これからの市場原理活用の第一の基準であるということである。この点は「公共サービス改革法」の第一条(趣旨)においても、「民間事業者の創意と工夫が期待される一体の業務を選定して官民競争入札又は民間競争入札に付することにより、公共サービスの質の維持向上および経費の削減を図る改革を実施する」とされているとおりである。むしろ強調点は、「公共サービスの質の向上」に置かれるべきだとも述べられている(内閣府編集「詳解公共サービス改革法」29頁など)。 第二には、そのためには、指定管理事業者で働く労働者や派遣労働者の、賃金水準や労働条件が十分に補償されなければならない、ということである。特に地域の事業者に、地域最低賃金制度の遵守を求め、「カラ残業」など労働時間規制の遵守を指導し、次世代育成推進法などによる職場改善を指導する、そのような行政機関の一部として、これらの法的規範に背馳するような契約を結ぶ行為は許されないのである。 イギリスでは、この場合、地方公務員とイコールフッティングであること、すなわち、同一価値労働同一賃金原則と同一労働条件での雇用の継承の原則がEU指令もあって、営業譲渡規則(TUPE)として確立している。 第三には、これら入札および契約にあたって、応募する事業者に価格要件以外の適切な応募資格を提示することがポイントだということである。この点は、「公共サービス改革法」の第9条2項3号でも、国等は「官民競争入札に参加する者に必要な資格に関する事項」を実施要領として定めることとし、知識や経理的、技術的基礎のほか、同条3項4号で「公共サービスの適正かつ確実な実施を確保する観点から必要な事項」を考慮すると定めていることに対応する点である。この「適正かつ確実な実施の確保」は、公正労働の実現と労働者の人間としての尊厳を守ること、そして環境配慮を実現することによって初めて可能になると解釈すべきだと考えている。 |
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(さわい まさる・奈良女子大学名誉教授) |