地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2006年4月のコラム

談合「自首」時代?

武藤 博己

 

 3月
29日の新聞各紙は、公正取引委員会が水門建設工事の入札をめぐり、大手メーカーの本社など40か所を立ち入り検査したことを報じた。公取の立ち入り検査はしばしば行われることであり、なんら目新しいことはない。が、今回は違う。昨年4月に改正され、今年の1月から施行された独占禁止法の課徴金減免制度の適用第1号の可能性があるとされており、違反企業の「自首」申告に基づく立ち入り検査らしい、というのである。

 「可能性」とか「らしい」という表現は、公表されていないからであるが、自首した企業に対しては文書をもって報告を受けたことを通知することになっている(独占禁止法第7条の2、第
10項)ものの、第三者に申告の事実を話すと減免制度が適用されないため(課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則、第8条)、公正取引委員会が課徴金納付を企業に命じるまでは減免されるかどうかについて、分からない仕組みになっている。

 課徴金減免制度は、違反行為をした事業者のうち、違反行為に関する事実を公正取引委員会の調査開始前に報告した者を対象としているが、三者までとされている。最初に申告した者には課徴金の納付を命じないものとされ、2番目は
50%の減免、3番目は30%の減免となっている。ただし、調査開始日以後において、違反行為をしていないことや、虚偽が含まれていないこと、他の事業者に違反行為の強要や違反行為を止めることの妨害をしていないことなどが条件である。(独占禁止法第7条の2、第7、8、12項)

 今回の立ち入り検査を受けた企業は、昨年の橋梁談合の際にも摘発された石川島播磨重工業や三菱重工業、日立造船、JFEエンジニアリング、住友重機械工業、三井造船、川崎重工業などの大手メーカーであり、また汚泥処理談合にもかかわっているところがほとんどである。

 また、公正取引委員会の記録によれば、各社は
1969年頃に談合組織「睦水会」を結成して、受注調整を行っていたが、1979年に公正取引委員会の審査を受け、いったん組織を解散していた。その後、石川島播磨や日立造船、三菱重工の3社が幹事役となって談合を繰り返していたという。橋梁談合と似た構図であり、談合体質の根深い業界であると言わざるを得ない。

 課徴金減免制度は、経団連などの経済団体からは反対が表明されていたし、また談合体質の強い日本社会では機能しないのでないか、という意見があったが、今回の立ち入り検査は日本社会でもこの制度が機能することを証明したことになる。3月
30日の日経新聞では、旧首都高速道路公団などの発注するトンネル用換気設備工事の談合疑惑で、石川島播磨、荏原製作所、三菱重工、川崎重工など6社(後に2社が追加された合計8社)に対して立ち入り検査が行われ、これも企業側からの申告を受けての立ち入り検査であったとみられる、と報道されている。

 こうしたことから考えると、課徴金減免制度の導入は、談合組織の維持を難しいものにする効果があるといえる。囚人のディレンマを引き合いに出すまでもなく、関係者全員が黙秘するという結末を導くためには、談合組織内の信頼関係が課徴金減免という誘因を排除するほどに強固でなければならないの
であるが、談合がすべての参加者に対してこの誘因を超える利益を配分することは困難になりつつある。

 一つは公共事業の縮減により事業量が減少してきていることであるが、もう一つの重要な要素は、上の事例のどちらの談合も官製談合の疑いが強いことである。官製談合とは官による談合であり、多くの場合は天下りの受入を伴っている。換言すれば、利益の一部が天下りの受入によって相殺されることを意味しており、談合組織内における利益の配分が減少し、主導権も官側に握られ、談合組織を維持するためにかけられるコストが減少することを意味している。そうした状況での課徴金減免制度の導入であったから、効果が大きいのかもしれない。

 しかしながら、「自首」申告は談合組織からの内部告発であり、談合破りであることに違いないのであるから、将来的には業界から不利益な取り扱いを受ける可能性は残っている。こうした不利益な取り扱いについても、申告制度等を活用して、救済する方法を考えておく必要があろう。このことは、内部告発全般についても、同様であると思われる。


(むとう ひろみ・法政大学教授)