地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2005年11月のコラム

荒唐無稽か-公務員宿舎に福祉施設を合築

 公務員制度改革が次の小泉改革の大きな焦点の一つである。このことと関連して忘れられがちな検討課題の一つに国家公務員の宿舎問題がある。全国に総戸数245,061戸(平成16年9月1日現在。財務省調べ。以下同じ)。この戸数は国家公務員宿舎法で貸与を受けられる職員数(583,650人。自衛官を除く)の42%相当分にあたり、全ての都道府県に、最低1,000戸~2万戸程度と戸数に上下の幅はあるとしても、存在する。

 霞が関を抱える東京都を見ると、23区に22,963戸(別に危機管理用宿舎271戸)、この内山手線内に3,882戸、都心三区(千代田区、中央区、港区)には1,607戸である。

 国家公務員宿舎法によると、公務員宿舎は、職務の能率的な遂行を確保し、もって国等の事務及び事業の円滑な運営に資することにあるとされている。しかし、国民は納得しまい。近時の公務員の不祥事や行政運営の不手際に起因する国民の公務員や行政への不信感は、公務員がこのような都内の超一等地の宿舎を特権的にあてがわれているとの批判となって、意外にも大きく増幅されているとも考えられるからである。

 ところでこれまでも公務員宿舎のあり方は検討され、その整備方針等が策定されている。老朽宿舎の建替え,集約立体化と余剰地売却、必要最小限の設置、土地の有効利用がその柱である。平成10年には、都心三区(千代田、中央、港)の宿舎については、危機管理対応に必要な職員用のものに限って合同宿舎を整備、山手線内は警察、防衛関係を除き合同化、その他の二三区内は原則合同化する方針が決定されている(「東京二三区内における公務員宿舎の整備方針等」)。

 しかし、この程度では国民の納得のいく見直しとは言えまい。もっと抜本的な見直しが必要である。まず、ここで最優先すべき観点は、災害用待機宿舎、職員の異動に伴う必要不可欠な宿舎かであり、しかも不要不急な宿舎は廃止するなど「必要最小限の設置」が基本でなければならない。

 問題は、「整備方針等」に掲げられている「必要最小限設置」の方針は実施に移されているかである。たしかに余剰な宿舎用地の処分も行われているが、それもここ三年間(平成一四~一六年)で約八六万㎡、金額にして約一千億円程度に過ぎない。したがって結局進められているのは各省にばらばら所属する宿舎の合同化が中心である。

 そこで公務員宿舎のあり方については、「必要最小限設置」を基本にした上で、国民の理解を得られるような新たな観点から抜本的に見直す必要があるように思う。例えば合同化や老朽化宿舎の建て直しを行うような場合などには、福祉施設などを合築するなど国民の目線に立って国民の賛同を得られるような社会的な配慮を行うべきである。また、集約立体化や土地の有効利用の側面でも、不要不急、余剰施設について単純に民間に売却するのではなく、社会福祉分野で活用できるような政策的観点からの有効利用を考えるべきことを提言したい。自治体や民間の福祉団体と協働してPFIなどの手法を活用するなどしながら公務員宿舎と福祉施設の合築なども考えたらどうかである。これは荒唐無稽な提言であろうか。しかし、郵政民営化など、小泉改革の多くも、はじめは荒唐無稽との批判の中で始まったのである。

さとう ひでたけ・早稲田大学教授)