地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2005年10月のコラム

「市民参加」の再構築

 この一年、奈良市の「ボランティア・NPOとの協働に関する指針」の案をつくる作業を帝塚山大学の中川幾郎さんやNPOの人たち、公募市民、先に策定した奈良県などと行ってきた。また、枚方市では「市民参加条例」の検討会議で同志社大学の今川晃さんや公募の市民の方々と議論している。

 これらの作業の中で、市民参加が新しい時代に入っていることを改めて感じている。もちろんこのことは既に言い古されたことになるのかもしれない。しかし、90年代後半以降の新しい「協働」という考え方と、1960年代以来の沿革を持つ「市民参加」という考え方がどういう関係になっているか、ということが常に討論のバックにあるように感じられたのである。

 結論から言えば、「協働」という行政と市民との新しい関係は、これからの市民社会を構想するためには、市民参加のひとつの形態として位置付けておく必要がある(箕面市市民参加条例など)、ということである。それはこの「協働」の胡散臭さ(松下圭一)とともに引き受けていくべきものだ。

 市民参加、住民参加はいまや当たり前になっているから、なにをいまさらという感じもあるかも知れない。ところが、一部の自治体や自治体の一部(都市計画部局や福祉部局)以外では、「形骸化した市民参加」、「行政のアリバイつくり」という批判があることも広く認められる事実である。

 ちなみに、今年9月 20日時点で13政令市(4月移行の静岡市を除く)のホームページを「市民参加」と「住民参加」で検索したところ次のようになった。

 

キーワード「市民参加」と「住民参加」のヒット数(件)


ワード




さいたま



名古屋





北九州


市民参加

258


13

24

259

2,989

100

2,631

173

28,100

216

147

47

住民参加

956

96



36

924

100

329

96

9,490

64

48

13

 

 これで各都市の市民参加度が測れるわけではない。検索エンジンの違い、検索方法の不適切さ、搭載文書の性格や量によっての違いもある。ということを断った上でやはり、顕著な差があるように見えるし、その差がなにか意味があるようにも見える。

 一方で 90年代から協働(ガバナンス)時代に入ったと仮定して、市民参加は協働という形態を含む新しい段階に入っているのだが、多くの自治体ではこの協働を安上がりのアウトソーシング手法の一つとして見ているのも事実である。このように協働の名の下に市民をスポイルした「行政都市」に対する批判が、今回の職員厚遇問題追及のひとつの要因となっていると思う。

 重要なのは、「自治基本条例」の制定自治体が増える中で、それらを活性化し、市民を主体とする自治体に近づけるためには、徹底した情報公開を前提に基礎的な制度整備が求められるという点である。第一に、自治基本条例のもとにおかれるべき「市民参加推進条例」の制定(政令市では京都市のみ)。この条例には、第二に、各課ごとの「市民参加推進計画」とその市民的評価組織(フォーラムなど)の設置が必要だ。第三に、NPOなどや地域住民組織の稼動を活性化する「市民公益活動支援条例」とコミュニティ・ファンドとしての「基金」が必要である。第四に、「ボランティア・NPOとの協働の指針」などの行政と市民との共通のルールが、全部局をカバーして設けられなければならない。このルールは、愛知県のようにNPOと行政との「活動協定」(コントラクト)の基礎となる。

 ただしこのような「市民参加」の「再制度化」あるいは「再構築」は、市民への「参加の強制」というマイナス面を考慮して、多摩市の基本条例市民案のように「参加しない自由」も保障されるべきだ。

さわい まさる・奈良女子大学名誉教授)