地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2004年12月のコラム

迷走中の三位一体改革-これからが本番-

 政府・与党は 11月26日、国と地方の税財政改革(三位一体改革)の全体像を決定した。先の地方分権改革が、「未完に終わった」と評された大きな理由となっていた税財政改革である。

 たしかに、地方分権改革は、地方分権一括法(2000年4月施行)によって、機関委任事務が廃止され、国の自治体への関与制限ルールが導入されるなど、国と地方の対等・協力関係が制度化され、一定の進展をみた。しかし、なお、これらの制度の内容についても、不十分な点が多かった。だが、地方分権改革を磐石なものにするには、なんといっても自治体行政を支える税財政改革である。これこそ地方分権改革の成否の帰趨を制する。

 地方六団体など自治体側が総力を挙げて取り組んできたのは当然である。今回は、その決定プロセスから見ても、自治体側に大きな期待を抱かせる要素があった。政府が地方に提案を求めただけではなく、地方との協議の場を設けたからである。地方側は、利害が錯綜する中で小異を捨てて大同につき、地方案をまとめて要求した。それだけに地方案の実現への期待は大きかったはずだ。

 だが、決定された三位一体改革の「全体像」は、輪郭(数字合わせ)は意外に明確だが、その内容は虚像の域(多くは先送り)を出なかった。主役である自治体は、張り切って芸をしこみ芸に磨きをかけて本番を迎えたが(地方案の提示)、相方(あいかた)の国が、脇役(族議員・各省庁)に食われて主役の体をなしていない(政府・与党の統治能力の欠如)。成駒屋を標榜(政治主導)したはずの国側の主役(小泉首相)が、大向を唸らせる演技(政治主導)をしなかったからだ。

 第一筋書きがよくない。三位一体改革によっていかなる国と地方の関係を描き、いかなる地域社会を描こうとしているか、よくわからない。作者の意図の分からない芝居ほどつまらないものはない。あちら(族議員)に配慮しこちらの好み(省益)を聞いて台本を書いたのでは、芝居の筋立て(税財政改革のねらい)が面白かろうはずがない。しかも、今回の税財政改革は当然国・地方行政のスリム化を狙い、国・地方の財政再建につなげる筋書きもある。国民の立場から言えば、それは当然だ。しかし、開けてみれば国の財政再建の筋書きだけが見え隠れしていて、地域社会や住民生活をどのように作り上げていくか、という筋書きが見えてこない。合作をした台本作者たち(政府・与党、族議員、中央省庁)の独りよがりの芝居作りに見えてくる。そして出来栄えを自画自賛している図である。

 補助金削減がその例だ。地方が求めた補助金削減は、公共事業1兆2千億円、非公共事業1兆2千億円、義務教育8千5百億円で、当然税源移譲が前提だ。しかし、税源移譲につながる政府削減案は、公共事業ほぼゼロ、非公共事業2千億円にとどまる。義務教育関連は8千5百億円削減で金額面では地方の要求に応えた形だが、削り方は中央教育審議会の決定に委ねるなど、先行き不透明で地方の要求する教育改革につなげられるか分からない。「地方案と大きな隔たり」と報道された部分である。しかも税源移譲として地方が求めていたのは、国税の所得税から地方税への税源移譲という抜本改革であるが、このような「基幹税」による移譲はト書きにはあるが、なおその具体的姿は舞台には登場しない。

 地方交付税については、もっと深刻な筋書きと見た。来年から2年間は、大きな削減は避ける(「地域で必要な行政課題に対し、適切な財源措置を行うなど『方針2004』を順守。」との表現)としてはいるが、地方交付税額などの具体的調整は、総務、財務両省の今後の作業に委ねられている。財務省は、国が見積もる地方の財政支出規模を抑え、交付税減額につなげる構えであると報道されている。今回具体的制度改正に乗り出さなかったのは、「国にしばらく主導権を残しておいて地方交付税総額の抑制実績を先行させ、それから制度改正へ」(私見)との腹か、と勘ぐりたくもなる。財源の乏しい自治体については今後その財政の安定化はどうするか、などの議論は舞台には登場してこない。

 他方、肝心の住民はこれをどう見ているか、だ。地方分権「望ましい」63%、権限・財源を地方に移譲した場合「対応できない」46%、税金に見合った行政サービス「受けていない」60%、との世論調査もある(讀賣11月26日付)。

 政府・与党が決定した三位一体改革は、問題は多々あるとしても、アジェンダ(具体化の工程)化されている。そうなれば自治体側は、この「全体像」の影響の分析とともに、この具体化の工程の監視と具体的対応のための体制作りこそが正念場である。同時に、先の世論調査などにも留意しながら自治体の自己改革を進め、税財政面だけでなく行政サービスのあり方を抜本的に見直し、地方分権の受け皿に値する自治体作りをさらに進める責任がある。

さとう ひでたけ早稲田大学教授)