地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2003年12月のコラム

「公的事務」の「民間化」

「公的事務」の民間委託化は、かねてより広範に進められてきた。公財政の逼迫に伴い、財政支出の抑制と効率性を確保するためであろう。ただ、この「公的事務」の民間委託化は、当該事務を行政が行う「公的事務」であることを前提にした上で、その執行を民間に委託するものである。

 しかし、今日では、従来行政が担ってきた様々な「公的事務」が、多くの領域で、必ずしも行政固有の領域ではなくなってきつつある。行政が行うべき「公的事務」と考えられてきた事務そのものを根底から見直し、「民間でできるものは民へ」、「民と官」で協働して行うべきものは「公私協働」で、との考え方である。この考え方、その評価はしばらく措くとして、小泉内閣の行財政構造改革の目指す行政のスリム化、行政領域への民間活力の導入、あわせて新産業創出構想と軌を一にする。

 公共施設の設置・整備・運営を民間事業者によって行い得るための契約的手法として導入されたPFI( private finance initiative )、社会福祉分野においては、介護保険制度、支援費支給制度などの中に見られるように、現物給付を中心とした措置制度・措置委託制度から民間の社会福祉事業者とサービス受給者(利用者)との私的契約関係へ力点を置いた制度への変化、父母などによる学童保育運営の制度化(放課後児童健全育成事業。児童福祉法21条の25、社会福祉法2条、4条など=第2種社会福祉事業)などである。この現象は、行政事務の民間委託化ではなく、公的事務の執行や公的サービス提供の民間化である。

 さらに都市再生関連諸法の中に登場した民間活力の導入、民間の活動領域の拡大手法として、都市再生事業都市計画決定提案制度(都市再生特別措置法37~41条)、民間都市再生事業計画制度などがある。前者は、都市計画法13条その他の法令で定める基準に適合し地権者の三分の二以上の同意等を条件として、都市再生事業者が都市計画の提案を行いうる制度である。後者は、民間事業者が都市再生緊急整備地域内において民間都市再生事業計画の認定を国土交通省大臣に申請し認定を受ければ金融等の支援を受けられる。施行区域内の地権者三分の二以上によって設立された株式会社・有限会社に市街地再開発事業の施行権も付与されるようになっている。

 「公的事務」の「民間化」、すなわち「民間でできるものは民へ」、「公私協働」で行いうるものは公私協働でとの考え方は、行政のスリム化、民間活力や民間的手法の導入によって行政を活性化するために、そのこと自体には異論はない。問題は、第一に「民間化」によってもたらされる民間事業者・サービスの受給者・行政三者間の法関係、第二にサービスの質の確保のための制度、第三に行政の責任のあり方等の検討の必要性であり、より根本的には行政が担うべき「仕事」とは何かを、これまで以上に改めて検討してみる必要がある。

さとう ひでたけ・早稲田大学教授)