地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2003年6月のコラム

公務員制度改革と労使関係
 一時は見送りか(読売平成15・2・19)と報道された国家公務員制度改革関連法案の検討が、政府・与党内で大詰めを迎えつつある。しかし、「イラク人道復興支援特別措置法案」等の論議の影に隠れて、意外に国民やマスコミ、とくに自治体関係者の関心は薄い。「公務員制度改革大綱」(平成13・12・25)は、地方公務員制度改革についても、国家公務員制度改革に準じて行うことを提言している。今次改革は、平成15年中に国家公務員法改正、17年度までに関係法律、政令等の下位法令の整備、18年度中に新たな制度への移行が計画されているから、地方公務員法の改正問題も早晩浮上してくることは必至である。それだけに自治体においても国家公務員制度改革の動向には、関心を払っておく必要がある。とくに次の2点についてである。
第一は、「能力等級制」導入との関連である。現行給与体系の基本は、等級(官職に基づく職務の級)と号俸(勤続に応じた昇給分)からなっている。新給与制度は、能力・職責・業績に応じた貢献度を反映したものとするため、基本給(<定額部分>と職務遂行能力の向上に応じて原則として毎年加算されていく部分<加算部分>からなる)、職責手当(従来の管理職手当てで職責の大きさに応じて設けられる)、業績部分(民間企業でいえば賞与で、安定的に支給する<基礎的支給部分>と勤務実績に応じて支給される<業績反映部分>からなる)で構成される。業績反映部分は、直近の業績評価を参考にして人事管理権者(任命権者)が行う。問題は、自治体において、このような業績評価を行うシステムを構築し得るかである。そこで直ちに念頭に浮かぶのは、都道府県、政令指定都市など人事制度の専門機関である人事委員会を置いているところは、その活用である。その他の市町村では広域的に人事委員会制度(現行では公平委員会)のような専門機関を置くなどして客観的合理的な運用を検討する必要がある。国家公務員制度改革においては、このような権限を人事管理権者(内閣総理大臣、各省庁大臣)に集中させ、それを「管理運営事項」と考えて、団体交渉の対象から省くとともに、人事制度の専門機関である人事院は意見を述べる権限程度にして、このプロセスヘの人事院の実質的関与を排除せんとしている。地方公務員制度改革においては、このような愚をさけ、人事の専門的第三者機関の活用を検討すべきであろう。
第二は、労働基本権制約との関係である。公務員の労働基本権制約が合憲的に存在し得るのは、国家公務員の場合人事院の給与等に対する勧告制度など人事院の機能である。同様に労働基本権が制約されている自治体職員の場合も人事委員会勧告などを代償措置と想定している。しかし、都道府県・政令指定都市など人事委員会を置く自治体の場合はともかく、その他の多くの自治体は公平委員会を有するに過ぎず、その意味では、労働基本権制約の代償措置は存在していない。現在検討されている公務員制度改革は、労働条件の重要な構成部分をなす給与制度、昇任、降任などに大きな影響を与える可能性を有している。大綱は「公務員の労働基本権の制約については、今後もこれに代わる相応の措置を確保しつつ、現行の制約を維持することとする。」としているのであるから、公務員制度改革は労働基本権制約との関係では、少なくとも全農林警職法事件最高裁判決にいう代償措置が十分考慮されたものでなければならない。さもなければ労働基本権が制約されている現行のもとでは、少なくとも団体交渉権のあり方を実質化する方向(例えば、地公労法型あるいは特独労法型)での改革が要請されることになる。
さとう ひでたけ・早稲田大学教授)