地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2003年5月のコラム

グローバルで構造的なデフレ
 日本の消費者物価は、03年3月まで1999年10月をピークに、3年6ヶ月連続して下落しつづけている。全国の生鮮食料品を除く総合指数は、2000年を100として、今年の3月期で97.8となっている。これはピーク時から見ると、2.1%の下落率となる。前年同月比では0.1%の下落である。なお、対前月比では、春物衣料の価格上昇、石油価格の上昇などによって0.3%の上昇となっている。
また、企業物価指数(卸売り物価指数を変更)は、2000年1月を今回の景気循環におけるピークとして、95.4と5.1ポイント下落している。
一方で、アメリカの連邦準備理事会(FRB)は、03年5月6日の委員会で、当面の政策運営の方針を景気下降リスクを重視する「景気配慮型」に変更している。この背景には、アメリカ経済も「デフレ一歩手前」という厳しい認識がある。既にモノの値段は、01年10月以降16ヶ月続いて前月を下回っている。
国際通貨基金(IMF)の基準だと、マイナスのインフレ率が2年以上続くことをデフレとしている。つまり対前月比で物価上昇がマイナスという状態が24ヶ月以上になれば、IMF基準でもデフレと認定される。アメリカのモノの消費者物価は、その前夜ということになる。ただし、サービスの価格はなお1.7%の対前年比上昇している。これは、教育費と医療費の上昇のためである。
また、中国でも2001年4月から物価上昇率がマイナスとなり、今年の2月までは物価下落状態、デフレ状態であった。この状態は石油価格の上昇などから下げ止まったとされていたが、SARSの影響による景気停滞で再び下降局面になるおそれが強い。
長期的に見た素材、資源価格の下落は、日経42種商品指数で見ると2度のオイル・ショックとバブル経済によって価格の上昇が見られたが、その後低下するということを繰り返し、99年には、82年基準のほぼ半値となっている(橋本寿朗『デフレの進行をどう読むか』岩波書店、2002年3月)。これにおそらく90年のベルリンの壁崩壊と社会主義経済圏の資本主義市場への包摂という条件が重なり、さらに、デジタル革命の波がかぶさったためである。 このような、世界的な、特に日本におけるデフレーションがなぜ生じているか、という問題についてはまだ十分に解明されているわけではない。したがって、デフレ克服の政策も迷走せざるをえない。
しかし、今回のデフレが10年以上の長期にわたる、構造的で世界的なものだという認識は定着しつつある。例えば、前記橋本の遺著のほか、金子勝『長期停滞』(ちくま新書2002年8月)、榊原英資『構造デフレの世紀』(中央公論社2003年3月)など。最近では、5月4日の日経で、三菱証券のエコノミストが、現在の世界的な長期金利の低下が歴史的断絶期に起こる現象であり、「世界経済に広がるデフレも10年程度では脱却できない」と述べている。
そうだとすれば、この長期デフレにどう付き合うか、そしてそれを激烈なものとしないための政策的な選択肢を急いで用意すべきなのだ。特に物価下落は、賃金下落に直結するから労働組合にとって大きな試練となるからである。また自治体にとっても、債務の重圧が大きくなる一方、税収は減るというダブルのボディーブローが来るからである。
さわい まさる・奈良女子大学教授)