地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2002年12月のコラム

自治体の道路行政への警鐘
― 道路公団民営化委報告 ―
 農村部を車で走ると国道と立派に整備された農道が並行して走っている光景が見られる。地元住民から見ればいずれも生活道路である。この農道を子供達は朝夕通学路として利用し、大人は通勤や農作業に向かう。子供達の横をトラックやダンプカーがうなりをあげて疾走するのを見ると子供達の身の危険を感じる。しかし、多くの場合この農道には歩道がない。農水省の農業振興関連補助事業と国交省所管の道路整備事業の違いからであろう。縦割り行政を絵に描いたような光景だ。
大きな河にかかる橋は、交通渋滞の元凶だ。橋が交通のボトルネックとなるからである。橋のたもとで、橋を渡る国道と市町村道が交錯すると最悪だ。二つの所管が異なることから、道路計画の調整不足が生じ、立体交差などの方策が十分講じられないからである。交差した道路の交通信号も、もう少し工夫すれば交通渋滞を緩和できると思うが、これも警察と道路管理者の権限の割拠の故にか、もう一つだ。
いずれも、これまでの縦割り行政や中央集権型行政の弊害を象徴している事例だ。今日ではパイロット自治体による対応、規制改革、中央省庁再編、地方分権改革などによって、その多くは解消されつつあるはずである。
しかし、道路行政は、その縦割的体質は多少緩和されつつあるが、既往の中央集権・国依存的体質を依然根本的には脱却していない。今回の道路関係四公団民営化推進委員会の審議を通じて、道路、とりわけ高速道路建設をめぐる別の事態の深刻さを我々国民は知ることとなったからである。高速道路建設をめぐる27兆円にも及ぶ膨大な借金の元凶は、国で決める高速道路網整備計画の甘い見とおし、道路公団の杜撰な経営によるものではあるが、国費による好都合さから無駄を承知で高速道路の建設を見て見ぬふりをしてきた自治体側にも責任の一端がある。地域振興、公共事業に伴う地域雇用確保など自治体側の主張はもっともである。それを安易に批判することは、地域の実情を無視することとなり、公平な批判ではない。しかし、高速道路網の建設を計画する前に、まず、交通渋滞の解消、料金が高く利用しにくい高速道路よりも、地域生活道路としての一般道路の建設を優先させる必要はないか、自治体は自ら地域生活道路のあり方を考えることこそが重要なのではないかである。 民営化委報告は、野放図な道路建設に歯止をかけ、今後建設する場合は自治体にも税金の投入を求める内容となっている。自治体は、同報告に反発するだけではなく、これを機に高速道路も含めた地域生活道路行政のあり方を今まで以上に真剣に見なおす必要がある。
ただ、それには前提がある。地域が自らの知恵・カネ・責任において地域生活道路計画・建設ができる体制をいかに作るかである。国主導全国一律型道路仕様の見なおし、国の直轄事業の地方一部負担、地方単独事業に関して地方交付税による起債元利償還を一部措置する制度のあり方の見なおしなどを含めた道路行政をめぐる国・地方の責任分担を明確にした上で、税財源を地方に移譲することである。さしあたり国・地方三対二の比率となっている約5兆8千億円の道路特定財源を、小泉首相の公約となっているように一般財源として地方へ移すことを検討すべきである。それを具体化することが直ちには難しければ、地方への配分比率をもっと高めるなどの方法もあろう。
さとう ひでたけ・早稲田大学教授)