地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2002年10月のコラム

日本労働法学会大会傍聴記
田中 義孝
 第104回となる日本労働法学会大会(2002年10月6日、於山口大学)を傍聴した。「公務員制度と労働法」というタイトルで大シンポジウムが行われると聞いていたからである。
思えば、同学会代表理事の毛塚勝利氏が書いているように、「官公労働者の労働基本権論は、かつて、労働法学会においてはもっともホットな論点のひとつであったが、1974年第47回大会のシンポジウムを最後に労働法学会の舞台から消え」ていたのである(『学会通信』№14、2002年9月1日、1頁)。それだけに、当面する公務員制度改革に労働法学会がどう対応しようとしているかを窺い知るうえでいい機会と考えたからでもある。
しかし、労働基本権論議というものは聞かれなかった。司会者によれば、この点での改革論議は今大会の検討対象とするほどには成熟していないということのようであった。
大会では、「公務員人事制度の『民間化』とその限界」として、「能力主義・成果主義化および非正規職員の活用を中心とした労働法学的考察の試み」について報告され、「公務従事者の多様化(実態)」に直面して、公務への「非公務員の雇用と憲法」という問題が提出された。コメンテーターとして招かれていた行政法学者が指摘したように、公務員制度をめぐる動向と改革論議の流れに棹さすものとの印象をぬぐいえないものがあった「労働基本権論」に関連しても、団体交渉権・ストライキ権が認められない、ストライキができない公務員労働組合運動の現状に見合うかのように、争議権論に偏したかつての労働基本権論議への反省が強調され、団体交渉権を中心に据えた学説提示の可能性が示された。それは、憲法28条における団交権とはという根本的な検討を迫るものとされ、「団交権法理の再検討の際の中心的パラダイムの一つは、当事者への手続的権利付与と『当局』による説明義務を主たる構成要素とする、デュー・プロセスにあると考える」という「私見」が述べられた(渡辺賢帝塚山大学教授)。公務員の労働条件決定システムを素材に団交権法理を再検討するとすれば、そういう方向もありうるということであろう。
ところで、公務員労使関係に特徴的なこととして、公務員は、個人としても団体としても、国民にたいして責任を負っているのであるから、その仕事の中身・仕方について説明責任を有するのであり、それを果たすためにも、それらの事柄について当局と交渉する、それを団体交渉ルールにのせることはできないかという指摘もあったが、一考に値するように思われた。
(たなか よしたか・地方自治総合研究所非常勤研究員)