地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2003年7月のコラム

談 合 社 会
武藤 博己
 本年6月末から7月上旬にかけて、水道メーターに関連する談合事件が新聞紙上を賑わした。これらの記事を読むと、次のような内容であった。6月28日に水道メーター業者19社が談合の疑いで強制捜査を受けた。談合は大手4社と、中小のとりまとめ役の計5社で実行された。97年にも摘発が行われたが、95年度と99年度を比べると、口径20ミリのメーター単価がほぼ3分の1(7,900円→2,800円)に下がったため、「適正価格」に戻そうと談合を行った。97年の摘発では、価格一覧表が当局に押収され、決定的な証拠となったことから、今回は価格を決めなかったが、前年度の最高落札価格を基準に、「あうんの呼吸」で本命業者への落札を図り、00年から単価が上昇し始めた。ところが、明確な数字ではなかったため、「談合破り」も一部では生じていた。また、97年の摘発時は、25社34人が有罪判決を受けたが、今回は大手4社の担当幹部4人が逮捕された。
 記事の内容はおおむねこのようなものだが、記事データベースで調べてみると、97年の摘発時よりもずっと以前の91年に談合の疑いがもたれているという記事があった。摘発は2回目だが、この業界の談合の歴史はなかなか古いようだ。その間にもしばしば談合の疑いがもたれ、公取委から排除勧告が出されている。これらのことから、水道メーター業界は談合体質が染み込んだ業界であることがわかる。
 価格を決めないなど、今回の談合事件はかなり巧妙であることがわかる。談合の巧妙化が進んでいることはこの業界だけのことではない。最近目についたことをあげれば、談合の難しい公募型入札でも談合があったという。名古屋市内の建設業者ら25社が談合を繰り返していたとして、公取委は排除勧告を出した。市は入札前に業者名を公表しないため、談合が困難とみられていたが、工事設計図を販売することから、業界の「地域担当者」が販売場所に張り込み、設計図を取りにきた業者に入札に参加するかどうかを確認し、これを受けて「調整役」らが調整していたという。(朝日、6月28日)
 また、官公庁などが発注する建設資材の実勢価格調査の入札で談合を繰り返していたとして、国交省と内閣府所管の財・経済調査会と国交省所管の財・建設物価調査会に、排除勧告が出された。両法人は、そもそも公共工事の建設資材価格などを調査する団体で、談合を排除すべき立場にある公益法人であるが、公表資料にない資材の価格調査を受託する際、談合を繰り返していた。(日経、6月12日)
 さらに、「1社入札」という状況も生まれている。日本道路公団は、道路工事をめぐるファミリー企業の談合事件を受け、今年度から応募条件を緩和するなど競争性を高める入札改革を行ったところ、逆に1社しか入札に参加しないケースの割合が全体の67%にあたる58件もあったという。こうした「1社入札」は01年度に4件(約11%)、02年度にも9件(約23%)しかなく、今年度に急増した。(朝日、6月14日)
 このような談合社会に対して、政府も新しい規制を導入している。すなわち、2000年11月には「公共工事の入札及び契約適正化の促進に関する法律」が国会で成立し、また昨年の7月には「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」(いわゆる「官製談合防止法」)が成立した。しかしながら、今回の事態をみると、これらの新規制も効果がないといえよう。
 ではどうすればよいだろうか。談合のしにくい「政策入札」を導入する必要があることは以前にこのコラム(2001年12月)で指摘したが、さらに談合をした場合の「ペナルティーの強化」や、談合が明らかになった場合の「損害賠償の義務化」などの対応が必要であろう。すなわち、発注する側、すなわち自治体側の厳しい対応が不可欠なのである。
(むとう ひろみ・法政大学教授)