地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2004年1月のコラム

独禁法改正と課徴金引き上げ
武藤 博己

 独占禁止法の改正が提案されている。最近の動きとしては、「独占禁止法研究会」が公正取引委員会から検討の依頼を受けた「独占禁止法の措置体系及び独占・寡占規制の見直し」について検討を行い、その報告書が昨年(2003年)の10月28日に公表された。また、この報告書についての意見募集が公正取引委員会によって行われ、112件の提言・意見等が寄せられた。これらの提言・意見等を踏まえて、昨年の12月24日に公正取引委員会から「独占禁止法改正の基本的考え方について」が公表された。

 改正のポイントは、①課徴金制度の見直し、②措置減免制度の導入、③犯則調査権限の導入・罰則規定の見直し、④審判手続等の見直し、そして⑤独占・寡占規制の見直しとされているが、ここからわかるように、改革対象が広範であるばかりでなく、これまでの考え方を大きく転換するものであり、もし実現すれば、独占禁止法制定以来の大改正になると考えられる。ここでは、①についてのみ、言及することにしたい。

 まず課徴金とは何かといえば、「現行課徴金制度は、カルテルによる経済的利得を国が徴収することにより違反行為者がそれをそのまま保持し得ないようにすることによって、社会的公正を確保すると同時に、違反行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するための行政上の措置」(報告書、p.15)である。1977年の独占禁止法改正で導入され、現在は原則として大企業の場合は違反行為に関わる売上額の6%、中小企業の場合は3%とされている。当初は1.5%で始まったが、その後の改正で引き上げられ、現行の仕組みとされた。ところが研究会は、「違反行為を繰り返す事業者が少なくなく、カルテル・入札談合禁止規定に係る実効性は、必ずしも十分に確保されているとはいえない」(報告書、p.9)という基本的認識を有しており、課徴金制度の見直しが必要だと提言しているのである。すなわち、不当利得分を国が徴収して、違反行為の経済的メリットを奪うことによって、違反行為を抑止しようと考えているが、それがうまく機能していないという認識である。

 そこで、課徴金を引き上げ、実効性を高めようという考えだが、課徴金を引き上げるためには、不当利得相当額となっている現行課徴金の意味を変更する必要がある。すなわち、「違反行為による経済的利得相当額を国が徴収する現行の仕組みを改め、不当利得相当額以上の金銭を徴収する仕組みとする」(基本的考え方、p.2)というわけである。「経済的利得相当額」を「不当利得相当額以上の金銭」に変更するのであるが、不当利得相当額「以上」の部分には、「違反行為のために社会に及ぼした経済的厚生の損失を負担又は補償させるとの観点から、違反行為によって需要者にもたらされる損失と擬制できる水準まで」(報告書、p.16)引き上げるのはどうか、と提案している。具体的に何%にするのかは、提案されていないが、以前の新聞報道では現行のおよそ3倍にあたる20%程度という数字が明らかにされたことがある。

 その根拠としては、入札に際して、談合が排除されたと考えられる場合に、落札率(予定価格に対する落札額の比率)が20%以上、下がることがあるということや、外国との比較などがあるようだ。

 こうした提案に対して、OECD事務局からの「カルテルを防ぐためには、強いサンクションは必要不可欠であり、課徴金引上げは適切である」という意見や日弁連からの「課徴金制度の見直しに賛成」という意見があるが、他方では経団連などからの「不当利得のはく奪を超えた課徴金は、制裁であり、憲法上の二重処罰の禁止に抵触する」という意見や全国建設業協会等からの「違反事業者には、既に課徴金以外にも多くの制裁措置が課されており、課徴金を引き上げるべき時ではない」という意見が寄せられた。

 これに対して、公正取引委員会は、「刑事罰とはおよそ、その趣旨・目的・手続を異にする」ものであるから、二重処罰にはならないとして、課徴金の引き上げと繰り返し違反行為を行う事業者等には課徴金を加算する制度を導入することを宣言したのである。

 こうした動きに対して、「規制強化に対する経済界の反発に加え、『政権公約』に独禁法強化を盛り込んだはずの自民党も反対一色だ。公取委が目指す……通常国会提出には暗雲がたれこめている」(asahi.com04/01/04)と報道されるなど、今後の動きを注視する必要がある。

(むとう ひろみ・法政大学教授)