地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2004年2月のコラム

変容を迫られる都道府県

 先の第27次地方制度調査会答申は、都道府県にとってかなりシビアな問いかけを含んでいる。それぞれの区域内における市町村に対しては、いわゆる「基礎自治体優先主義」の原則のもとで、なにやらそれに反しかねないような広域自治体としての積極的な役割の遂行を求められる。市町村合併についてのプロモーターとしての役割がそれであり、これまでのように、考えられる合併パターンを示すだけでなく、合併の個別事案ごとに勧告・あっせんをしなければならない。これだけでも、都道府県とは何か、あらためて考えさせられることになるはずである。

 しかし、答申はそこにとどまらない。すなわち、なんと現行の都道府県制そのものの廃止をも視野に入れて、今後の広域自治体の姿について真剣な検討をおこなうことが求められているのである。答申の中で使われている表現を借用するならば、「変容を求められる都道府県のあり方」の問題であり、「広域自治体としての都道府県のあり方が改めて問われるようになってきている」という次第である。議事録を点検してみれば判明するように、この部分の最初の案文は、「変容を求められる」ではなしに、「変容を迫られる」という表現であった。

 まさしく、都道府県は変容を迫られているのだが、その際にそれこそ問わなければならないのは、それがどのような方向での変容なのか、ということである。地制調答申で示された基本的認識に従えば、都道府県の機能のうち市町村に対する補完機能は一般に縮減し、連絡調整機能に純化していくことになるであろうが、いうところの広域機能に関しては今後ますます重要でありつづけることになるとの見通しのもと、その広域機能の強化を図るには、現行の都道府県では面積規模が小さくなりすぎているから、さしあたり都道府県合併の可能性を追求し、それに併せて道州制への切り替えを展望しようというわけである。

 さて、どうであろうか。都道府県が置かれている状況を評して、まるでリストラ組織における中間管理職の悲哀を味わえと言わんばかりだ、とつぶやいた友人がいる。部下の人員整理に苦慮しながら、その一方で自分自身の将来にも不安を抱えている中間管理職の立場にそっくりだというのである。なるほど、と応じながら、そうした比喩がなされるような国・都道府県・市町村の関係を、文字どおりの水平的な政府間関係に組み替えることこそが、いま求められているのではないか、それなのに、その関係構造を維持したまま、市町村に対してあたかも上位団体であるかのように迫ったり、広域自治体としての行政区域の拡大化のみを追求するのはいかがなものなのか、と考えさせられることになった。

 基礎自治体の場合にしろ、広域自治体の場合にしろ、私たちはとかく「規模・能力仮説」を暗黙裏の前提にしがちである。規模が大きくなればなるほど自治体としての能力が強化されるというのだが、地方自治体が行政の組織単位であることを越えて、まぎれもなく自己統治のための政治的な組織単位であることに思いをはせるならば、行政運営上の能力の増強策にのみ明け暮れるわけにはいかない。広域自治体としての都道府県の将来像について考える際に私たちがとるべき基本戦略は、単なる行政区域の拡大戦略ではなく、国との関係のみならず、市町村との関係の組み替えをともなった、現在の都道府県の「完全自治体化」戦略ではないだろうか。

いまむら つなお・中央大学教授)