地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2005年1月のコラム

行政活動の成果

武藤 博己

 国の政策評価が実施されて3年目に入っている。各省からは政策評価の報告書がホームページに公開されており、行政活動についての情報提供活動が拡大したということができるかもしれない。しかしながら、公表されている政策評価報告書を実際にみてみると、いろいろな問題点がある。

 2004年12月21日、国の政策評価・独立行政法人評価委員会の政策評価分科会から「政策評価制度に関する見直しの論点整理」という文書が公表された。「論点整理」は全体で13頁の小冊子であり、詳しい議論は掲載されていないが、そこで指摘されている項目は、①評価結果の予算要求等政策への反映、②評価の目的に適した評価の単位の設定、③達成目標の明示への取組、④政策のコスト・効果の把握、⑤規制の導入・修正時を始めとする事前評価の拡充、⑥学識経験者の知見の活用、⑦外部からの検証可能性の確保、⑧評価書の簡明さの確保、⑨国民的議論の活性化、⑩政策評価の重点化・効率化、⑪職員の意識改革、⑫地方公共団体との連携、⑬総務省が担うべき役割、⑭関連分野との連携、の14項目である。すべてが政策評価の本質にかかわる課題であるとはいえないとしても、幅広い問題点のあることが認識できる。

 各省から公表される評価資料について、順を追って丹念にみていっても、どの範囲の評価をしているのかわからないことがあるが、この点については②の項目の指摘と同様であろう。また、何を目標として、それが達成されているかどうかがわからない場合が多いが、この点については③の項目が対応していると思われる。さらに、コストについて、多くの場合、予算を示しているだけで、コストとはいえない場合が多いが、この点については④の項目が類似の問題を指摘していると思われる。今回は、行政活動の成果という点について、少し議論してみたい。

 政策の成果(あるいは効果、アウトカム)については、行政評価法第3条に「政策効果」の説明として、「当該政策に基づき実施し、又は実施しようとしている行政上の一連の行為が国民生活及び社会経済に及ぼし、又は及ぼすことが見込まれる影響をいう」と述べられている。総務省の他の文書によれば、具体例として、「行政サービスに対する満足度」、「講習会の受講による知識の向上、技能の向上」、「搬送された患者の救命率」、「開発途上国における教育水準(識字率、就学率)」、「農産物の生産量」、「大気、水質、地質の汚染度」、「ごみ減量処理率、リサイクル率、廃棄物の再生利用量、不法投棄件数」、「株式売買高の推移」、「育児休業率」、「就職件数、就職率」が掲げられている。

 ここでの説明では、行政活動が国民生活・社会経済に及ぼす影響が政策効果であるとされているが、もう少し詳しく述べれば、行政活動を行わなければ国民生活の維持や改善が困難であるという状況が認識されていて、国民生活の維持や改善という影響(目標)を求めて行政活動が行われ、その結果として国民生活の維持や改善が実現できたという事態(目標の達成)が成果なのである。したがって、満足度を高めようとすることや講習会受講者の知識・技能が向上すること、患者が助かること、ごみ減量処理が高まることなど、国民生活の観点から望ましいことが行政活動の目標として設定されていることが前提となる。

 このように考えていくと行政活動の成果はそれほど難しい考え方ではないのであるが、現実には社会にとって何が望ましいのかを目標として設定することが困難な場合が多い。農産物の生産量という例では、生産量が高まるのが望ましいと一般的には考えられるが、米の過剰と減反政策は逆である。株式売買高の推移の例でも、どこまでも高まればよいという目標は設定できない。施設を作る場合でも、いくつ作るのが望ましいのか、難しい判断となる。図書館の貸出冊数については、無料貸本屋でよいのかという批判もある。

 こうした問題について、どのように考えるべきであろうか。政策評価という方法は、むしろこのような問題の存在に気づかせ、行政活動の望ましい目標は何かを議論し、現実の目標を再確認あるいは再検討することを求める方法なのである。さらにいえば、その過程に市民が加わってこそ、社会にとって望ましい目標が形成されていくと思う。ここに政策評価の重要なポイントのひとつがあるのではないだろうか。

(むとう ひろみ法政大学教授)