地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2005年6月のコラム

制度やよし、しかし運用に危惧-市町村合併と地域自治組織-

 平成の大合併と称される昨今の市町村合併により、市町村の数は、平成18年3月31日の見込みでは、平成11年段階と比較するとほぼ半減(約56%程度)する。従来の国主導型の行政が見直され、住民生活にかかわる行政は、住民の生活の舞台である市町村中心に行うこととなったものの、市町村といっても大は数百万の都市から数千人規模の村まで、その規模は多様であり、財政的、人的力量には大きな開きがある。市町村の重要な仕事となった介護保険一つとってみても、小規模な村や町ではそれを十分担いうるかには不安がある。かてて加えて、国・自治体の抱える膨大な赤字の解消も焦眉の課題である。仕事や権限の「受け皿」としての市町村の力量論、財政赤字解消論からくる行政の効率化などを考えれば、市町村合併は一つの有効な選択肢であることは否定できない。

 ただ、市町村合併は、当然行政が広域化することから、それに伴う住民の不安もでてくる。従来より住民の声は行政に届きにくくなる、身近できめ細かな行政サービスのありようも変わりうる、地域の歴史や文化、伝統なども希薄化する可能性がある、などである。

 市町村合併に伴うこのような住民の不安を解消する一つの方策が「地域自治組織」である。合併前の旧市町村単位など一定の区域で住民の意見集約や市町村事務の一部を担うことのできる組織である。地方自治法や合併特例法の改正で制度化された。一つはゆるいタイプで、法人格はないが、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、住民の意見を反映させつつこれらの事務を処理するとともに、市町村が予算措置する「地域自治区」である(自治法202条の4~202条の9)。もう一つは法人格を有し、独自の予算編成権が与えられるなど一定の権限を持ちうる「合併特例区」である(市町村の合併の特例等に関する法律」26条~57条)。このような自治組織の導入を予定している合併自治体は、今年4月現在26道県の57市町、このうち13市町ではすでに活動しているという(総務省、讀賣5月28日報道)

 問題は、合併特例区の長の選任や事務所の設置、職員の配置、予算措置などを考えると設置するに値するだけの役割を果たしうるか、行政の効率化やスリム化の観点から見て、逆行するのではないかなど検討課題も多い。昨年合併した岐阜県E市では、6つの旧市町村単位の地域自治区で5億円の財源を用意し、その使途を検討しつつあり、朝市や高齢者福祉事業に活用する計画だという。本年3月合併した岡山県M町、N町では、旧両町に合併特例区が誕生し、2億円弱の年間予算でコミュニティバスの運行、町有林の管理、健康マラソン大会や夏祭りなどが計画されていると報道されている〔讀賣・前掲〕。

 このような自治組織の設置は、住民自治の充実のために、制度としては十分意義があると考えられるし、またその設置はまさに住民自治の問題である以上、部外者がとやかくいう筋合いではないかもしれない。しかし、真の住民自治の充実を願う観点から言えば、それが合併に対する住民の不満のガスぬきのためであったり、地域の「エゴ」でお金のばら撒きになるようなことのないよう願うのは、筆者だけではあるまい。

さとう ひでたけ・早稲田大学教授)