地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2006年6月のコラム

こだわった自治法96条2項括弧書き

 

 地方自治法の一部改正法案が5月末日に可決成立した。まだ詳しくは調べていないが、衆議院でも参議院でもこれといった議論が交わされなかったようである。新聞報道でもまったくといってよいほど取り上げられることはなかった。

 今度の一部改正は昨年
12月9日に第28次地方制度調査会で取りまとめられた「地方の自主性・自律性の拡大及び地方議会に関する答申」にもとづくもので、自主性・自律性の拡大に関する答申部分では、その最大の目玉であった教育委員会と農業委員会の選択設置制への切り替えが見送られたこともあって、期待はずれの感を抱いた関係者も多かったのかもしれない。しかし、明治の市制町村制以来の歴史を有する助役や収入役の職位と都道府県における出納長の職位が廃止されるなど、いわゆるトップマネジメントの再編をうながす制度改正も含まれており、それなりの意義を有している。

 それに比べて、地方議会制度に関する改正はどうであったろうか。3議長会から示された改革要望は多岐にわたったが、法改正までこぎつけることができたのは、そのごく一部であった。臨時会の招集請求権が議長に付与されたことや委員会に議案提出権が認められたこと、あるいは、特定の個別案件について学識経験者の調査・報告ができるようになったことなどが具体例である。長の専決処分について付せられていた、「議会を招集する暇がないとき」という前時代的な要件も表現が改められた。

 私自身が最もこだわったのは、地方議会の議決権を制約している地方自治法
96条2項の、「法定受託事務に係るものを除く」という括弧書きをはずすことであったが、残念ながら、地制調答申でもそこまで提言するに至らなかった。答申文には、「現在法定受託事務は議会が条例により追加することができる議決事件から除外されているが、法定受託事務も地方公共団体の事務であることからすれば、自治事務と同様議決事件の追加を認めることが適当であるものと考えられる」という一文が挿入されている。どうにかそこまでこぎつけたものの、それが限界であった。その一文に続けて、「この点については、法定受託事務に関する関与の特殊性等にかんがみ、法定受託事務と議会の議決との関係の整理について引き続き検討する必要がある」ということになってしまったからである。したがって、今度の一部改正でも96条2項はそのままである。

第1次分権改革の成果である新地方自治法の中で、これまであまり焦点化されることがなかった条文であるが、かねてから私は、なぜ議会サイドがあの括弧書きに注文をつけないのか、不思議でならなかった。もちろん、新地方自治法においてあの括弧書きが挿入された事情を知らないわけではない。各省の了解を得るには、そうするほかなかったのであろう。しかしそれにしても、地方議会の権能拡充を本気で考えるのであれば、あの括弧書きをそのままに放置しておくことなど到底できないはずでのものである。過日の全国町村議会議長・副議長研修会でパネルディスカッションのコーディネーター役をつとめながら、あえて「議会人はなぜ怒らないのか」とやや感情的とも受け取られるような発言をしたのもそのためである。


いまむら つなお・中央大学教授)