地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2006年9月のコラム

議員・議会が変われば、地域も変わる

 

 地方分権改革の要の一つが地方議会の改革であることは多言を要しない。制度改革と議員の意識変革の両面からである。

 制度改革の面で大きな足跡を残したのは、言うまでもなく地方分権推進一括法による議会制度改革である。機関委任事務の廃止に伴い議会の主要な権限である審議・議決権(自治法<以下略>96条)、検査・監査権(98条)、調査権(100条)等の議会の権限が、自治体が執行する事務全般(自治事務および法定受託事務)に及ぶこととなったからである。

 しかし、この改革によって地方議会改革の制度的制約が必ずしも完全に払拭された訳ではなかった。特に、地方議会の自立的議会運営に関する国の法律(地方自治法等)による制約は、多々残っていたからである。

 ただ、地方議会改革といっても、その前提問題がある。議会の役割をいかなるものとして位置づけるかである。議会の役割は大きく分けて二つある。政策立案と長以下の執行機関の行う政策立案・行政執行をチェックする役割である。議会が双方の役割を有するとしても、どちらに力点を置くかによって制度改正や議会運営のあり方は大きく変わってくる。どちらを選ぶかは、それぞれの自治体の判断に委ねるというのも一つの見識ではある。

 このような問題意識から言えば、地方分権推進一括法の議会改革は、機関委任事務の廃止に汲汲とするに止まり、議会の役割や性格付けなど、その基本的あり方にまで踏み込んだ改革とは言えなかった。

 このことと関連して、平成18 ( ‘ 06) 年自治法改正(5月31日成立、平成19年4月1日施行。一部先行施 行部分もある)は、地方議会の自立的運営に大きく道を開く可能性を持つと同時に、議会の役割に一定の方向性を示した改正ということもできる。従来以上に議会による政策提言に道を開いているからである。

 議長への臨時会召集請求権の付与(101条2項)、常任委員会の議案提出権の新設(109条7項)、議員の複数常任委員会への所属の容認(109条2項)、外部の専門的知見の活用(100条の2)などがそれである。議員が複数の常任委員会に参加できることになれば、政党や会派を超えて希望する委員会へ参加して各種の政策立案等の検討を行い、それが成案に至れば常任委員会として議会に提案することができ、議長は、臨時会召集の請求を行って、いわゆる議員提案による条例などの制定が可能となるからである。

 実は、このような制度改正を待つまでもなく、最近では各種の政策を議員提案によって条例化する動きが活発化する傾向にあると報道(毎日新聞 ‘ 06年7月3日)されており、今次の改正はそれをさらにサポートする制度改正となるとも考えられる。このような地方議会の動向は、議会のあるべき方向性を示すものであると同時に、議員の意識変革が徐々に進んできつつあるものとして注目してよい。

 その典型例は、北海道栗山町の議会基本条例である。従来地方議会の運営は、地方自治法の定める制約に加えて、「『標準』都道府県・市・町村議会会議規則」などを参考にして、各地方議会が会議規則を定めるのが通例であったため、議会のあり方や議会運営にそれぞれの自治体の創意工夫が必ずしも見られない例が多かった。栗山町議会基本条例は、議会・議員の活動の原則、町民と議会の関係、長との関係等、議会の基本的あり方を主権者である住民本位の観点を明確に意識して定めており、まさに議会に関する「基本条例」である。町民の参加や町民との連携を図るための各種の方策(情報公開、議会の町民への説明責任)が講じられ、議員の政治倫理にも目を向けているが、特に注目すべきは、町長との関係に関わる次の点である。一つは、議場における議員相互の討論、議員と町長等との一問一答方式による質疑応答、「逆質問権」の制度化などによって争点を明確にすることとしていること。もう一つは、町長が提案する議案について、政策等の発生源、検討した他の政策等の内容、他の自治体の類似する政策との比較検討、総合計画における根拠又は位置づけ、関係ある法令及び条例、財源措置、将来にわたる政策等のコストなどを示して、その政策等の決定過程を説明するよう努めなければならないこととしていることなどが盛り込まれている。実のない一般質問、議会の与党化による議会の長の追認機関化などを排して、議会の本来のあり方を模索した一つのモデルとして、今後の具体的運用と成果に注目したい。

さとう ひでたけ・早稲田大学教授)