地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2008年4月のコラム

第4期の介護保険事業計画のつくりかた

 今年度の福祉施策では、第4期目の介護保険事業計画と老人保健福祉計画の策定が最大の課題だが、その際に留意すべきポイントを整理しておきたい。これは先年、大阪府内の都市の担当者たちと共に視察した埼玉県和光市や東京都稲城市、品川区の自律的な実践、奈良県内の都市の取り組み、最近の『介護保険情報』誌などからまとめたものである。

 ポイントの第一は、「保険者としての市町村の責任」を、再度明確にするべきだという点である。まず、分権自治改革を介護と保健の領域で自主的に推進するという目的意識を共有したい。先進都市の経験では、地域の住民のニーズを把握した上で、法改正の動向をよく見ながら、独自の施策展開を図り、制度をつくることが重要だということが解っている。

 例えば、和光市や稲城市、品川区などは、全国的にはほぼ廃止状態の「在宅介護支援センター」を事実上看板を含め存続させ、それまでの「介護予防事業」を拡充するかたちで仕事の内容も継続し、それに「地域包括支援センター」の名を横に貼り付けている。そのために、特定高齢者の選定などの新規事業を早めに立ち上げることができている。

 また、介護保険の地域支援事業と一般高齢者向けの事業、さらにNPOなどによる任意事業とを組み合わせた「特定高齢者と一般高齢者との統合事業」(和光市)のサービスメニューが豊富である。これらを組み合わせたケアプランの作成と実施によって、特定高齢者を含む高齢者の生活の質を高める。これもまた、「保険者としての責任」のあり方である。

 これらの事業と後にあげるアセスメントツールによって、和光市の場合、特定高齢者も要支援者も減少し、後期高齢者の認定率も全国平均が30%のところ20%に近づいている(東内京一長寿安心課課長補佐)。つまり、予防事業の政策目標である「介護予防対象者を減らすこと」、「元気高齢者の多い街」が実現し始めている。それを現場で担うケアマネージャー集団が、「地域ケア会議」などを通じてつくられてきたことも大きな特徴となっている。

 第二には、「市町村保健センター」など保健部局との連携の強化である。特に、後期高齢者医療制度の施行により、それまでの老人保健法が「高齢者の医療の確保に関する法律」になり、保健事業が地域包括支援センターの「基本チェックリスト」による「生活機能評価」に狭められることも懸念される。いわゆる高齢者に対する「訪問指導」が手薄になることが心配される。この点は、一般市の場合は府県の保健所との連携も重要だ。

 第三には、「在宅介護支援センター」の機能の活性化である。基幹的な地域包括支援センターのブランチとして、社会福祉士、看護師、保健師、管理栄養士、ケアマネージャーなど2名か3名で担う支援センター機能を再構築する必要がある。厚労省老健局もこの2月8日の事務連絡で、「在宅介護支援センター」の活用を要請している。

 そして第四に、「包括的なアセスメントツール」の構築である。要介護認定者はもちろん、認定を受けながらサービスを利用していない一人暮らし世帯、地域から孤立しがちな夫婦のみ世帯、および要介護認定を受けていない高齢者を年に2、3回は訪問して状況を把握し、顔をつなぐ。そのためには、地域包括支援センターおよび在宅介護支援センター、また保健センターの医療スタッフ(保健師、看護師)がその中心を担うことが期待される。このデータバンクは、ケアマネージャーによるケアプラン作成と、事業者作成のケアプラン評価のツールともなる。このような情報基盤は、品川区、稲城市、和光市のいずれでもそれぞれ独自の方式で整備されてきている。

 第五には、介護予防事業への参加者(和光市)や介護支援ボランティア参加者(稲城市)の健康手帳やボランティア手帳にポイントを付け、それを換金したり、地域通貨として流通させようとする試みが始まっている。稲城市の場合は、2007年9月から「介護支援ボランティア制度」を始めているが、石田光弘高齢福祉課長は、「ボランティアに参加することで、社会参加・地域貢献につながり、そのことが介護予防につながるということが大きい」という。これは多くの団体で手付かずになっている保険料の還元事業でもあり、介護保険制度があってよかったという高齢者の思いにつながる事業でもある。

さわい まさる・奈良女子大学名誉教授)