2008年12月のコラム
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議員立法による自治法改正 |
今年の6月、多くの人が気づかないうちに地方自治法の一部改正があった。福田政権のもとでの第169回通常国会で成立し、6月18日に公布された法律第69号がそれである。8月20日には同法の施行期日を定める政令および地方自治法施行令を一部改正する政令が公布され、福田首相による政権投げ出しが報じられた9月1日からすでに施行されている。 同国会では新規に139法案が提出され(内閣提出80法案、議員提出59法案)、うち80法律が成立した。成立率はかなり低く(57.6%)、大学の講義のために作成した第148回国会(2000年)からの法案成立状況を一覧した資料でみると、一番低い数値となっている。内閣提出法案の成立率(78.8%)も同様であり、いわゆる「ねじれ国会」における国会運営の厳しさがそこにうかがわれる。ただし、それでも内閣提出法案は4分の3を超える成立率であるのだから、新聞報道でいわれるほどの低率ではない。 政治主導の確立を求める掛け声のもとで議員立法による法律の成立件数がいぜんとして振るわないことを指摘する観測も一部にある。だが、第148回国会~第169回国会の議員提出法案は合計779件に及んでおり、同期間中の内閣提出法案の合計1,000件とのシェアーでは、56.2%対43.8%である。成立法律の82.8%が内閣提出で、議員提出は残りの17.2%にとどまるものの、提出件数でみると4割以上が議員提出であることを見落としてはならないであろう。 ところで、上記の自治法改正もいわゆる議員立法のひとつである。自治法における議会関係規定の改正では議員立法によるものが多く、今度の改正もまたその例に属する。しかし、今度の事例は、第28次地方制度調査会の「地方の自主性・自律性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申」をうけて、一昨年に行われた内閣提出による自治法改正で陽の目を見ることがなかった規定改正を議員立法で行ったものである点で注目に値する。 28次地制調での議会改革に関する審議に際して、都道府県議会議長会によって設置された都道府県議会制度研究会は「公選職」の概念を提起し、自治体議会議員の職責・職務を法令上明確に位置付けること、そして議員の報酬に関する規定を新設・別置することを提言した。これに対して上記の地制調答申では、「公選職」概念につきいくつかの論点を挙げて「引き続き検討する必要がある」とし、もう一方の議員報酬の定めに関しては触れることがなかった。 今度の法改正でも「公選職」概念で提起された議員身分の明確化は行われていない。しかし、それに代えて、議会活動の範囲の明確化を図り、「会議規則の定めによるところにより、議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設けることができる」との規定を自治法第100条の中に新設するとともに、行政委員会委員等と一括して規定されていた議員の報酬の支給方法に関して、それを第203条に独立して規定するように改めた。要するに、28次地制調で見送られ、したがって内閣提出による議会制度改正で取り上げられなかった改正事項が、その全部ではないにせよ一部について、2年後のしかも「ねじれ国会」において、衆議院総務委員会委員長提出による議員立法で実現したのである。衆参両院とも全会一致による可決である。 衆議院総務委員会での審議を終えて、同日開催された参議院総務委員会で経過説明に立った衆議院議員(民主党)は、「これは改革の第一歩であって、今後もこの協議を続けていく」と言明している。そのとおりであるとすると、議員立法による自治法改正の動きがいよいよ本格化するのかもしれない。そんな予感を抱かせもする2008年改正である。 |
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(いまむら つなお・中央大学教授) |
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