地方自治総合研究所

MENU
月刊『自治総研』

2009年1月のコラム

公立病院改革の視点

 銚子市立総合病院(393床)は、2008年9月30日ですべての診療を休止した。市は2009年4月に公設民営か民間移譲で再開をめざすという。9月末で休止することは8月22日の市議会で1票差で決まったもの。引き金となったのは医師不足。常勤医は2006年まで35人いたが、2007年春は22人、2008年春は17人となりそれとともに患者数が激減。医師を派遣してきた日大病院が研修医の流出から「今後の派遣は難しい」と通告して医師を引き上げた。2007年度の累積債務は18億4千万円に膨らんでいた。12月26日には「市民の会」が市長リコールの署名2万5千を集めて市選挙管理委員会に提出している。

 一方で総務省は同じく9月30日、自治体財政健全化法に基づき、2007年度決算による全地方自治体の財政健全化比率を公表した。43の市町村が早期健全化基準をオーバーしている。このうち夕張市と赤平市、長野県の王滝村が財政再生基準を超えている。この連結決算による健全化指標の公表と、その基準に基づく来年度(2009年度)からの健全化計画の義務付けが公立病院再編の動きに拍車をかけている。

 厚生労働省は2007年12月、「公立病院改革ガイドライン」を公表し、各自治体に「公立病院改革プラン」を2008年度中に作成するよう求めた。このガイドラインでは、「近年、多くの公立病院において、損益収支をはじめとする経営状況が悪化するとともに、医師不足に伴い診療体制の縮小を余儀なくされるなど、その経営環境や医療提供体制の維持が極めて難しい状況となっている」という現状認識を示した。

 これらの認識をおおむねわれわれも共有する。もちろん診療報酬を2002年(マイナス1.3%)から2004年(±ゼロ、リハビリ医療の180日以内の期間制限)、2006年(マイナス3.1%)、2008年(マイナス1.2%)にかけて大幅に切り下げることなどによって、急速に進んだ医療崩壊という現状を改めることが必須条件だ。対GDP比でOECD30ヵ国中21位(2006年度)の8.2%という医療費の低水準を、税制改革と一体で克服するべきである。また11月に報告があった「公立病院に関する財政措置のあり方等検討委員会」で指摘された条件不利地域での公立病院への財政支援などが着実に行われるべきである。

 その上で、公立病院改革は、自治体の官僚的なシステムや政治的な思惑を病院経営に持ち込んでいること、そのことを変えていくことでもあることを指摘しておきたい。

 なぜドクターは公立病院から去っていくのか。研修医システムの転換の問題もあるが、他の要因として第一に、給与水準が民間を下回る、当直が多く勤務時間が厳しい、女性医師が働き続ける条件が不足する、などの悪条件がある。さらに、2、3年で交代する一般職の事務当局は、医師やスタッフの研究や研修の機会を設けることに消極的で、どのような地域医療を実現するのかというビジョンに乏しい場合が多い。自治体は、医療スタッフがなんのために働くか、その理念を明確にし、医師や医療スタッフが働きやすい環境をつくるべきである。その努力を人事や財政当局がバックアップすべきだ。この点は、伊関友伸城西大学準教授の『まちの病院がなくなる?』(時事通信社)でも指摘されている。

 すなわち、明確な地域医療へのミッションを医療スタッフと共有できる事務責任者を配置していくことこそ、遠回りのようだが公立病院の改革には欠かせない視点である。加えて、地域住民との関係を変え、節度をもって病院を利用できるような住民の能力をつくっていくよう、問題提起ができる病院と自治体に変えていくことが求められる。

 夕張市立診療所の村上智彦医師たちは、付設の老人保健施設を特別養護老人ホームとして使おうとする住民の要求と闘って、患者を病院から在宅に戻すという本来の中間施設としてのミッションを実現しようと努力している。そのため、2007年7月の開設後1年たった2008年6月末でも定員40名のところ利用者は28名である。経営的には厳しいだろうが、施策の理念を追求することに妥協しないその姿勢に共感する。

さわい まさる・奈良女子大学名誉教授)