地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2009年8月のコラム

民主主義のコスト

武藤 博己

 最近、ある自治体で特別職の報酬についての審議会にかかわった。首長や議員の報酬を検討する委員会である。また、本年7月26日に「市民と議員の条例づくり交流会議」の最後のセッションで議会改革についてのコメントを求められた。そんな経験から、ここでは「民主主義のコスト」について考えてみたい。

 民主主義のコストとは、民主主義を機能させるために必要な経費である。選挙の経費や議会の運営費がそこに含まれるであろう。選挙の経費については、選挙人名簿の調製や選挙の実施の費用(掲示板の設置、選挙公報の発行・配布)など、選挙管理委員会にかかわる公費のほかに、立候補者が自らの選挙運動に費やす私費がある。私費については、人によって異なるので、そもそも積算することが可能かどうか、また何を積算すべきかについても難しい問題がある。いずれにせよ、これらはすべて民主主義のコストであることは間違いない。

 また、選挙は国、都道府県、市町村別に行われるが、国は衆議院と参議院、自治体については首長と議会議員の選挙に分けられる。また政党助成金も多くは選挙に使われるのであろうが、民主主義のコストであり、さらにはマスコミの選挙関係費用や国民が投票するための学習や投票所まで出かけていく時間・労力も、民主主義のコストとして含めることができる。最高裁判事の国民審査も民主主義のコストに含まれるが、衆議院議員総選挙と同時に実施されるため、コストは少ない。ちなみに、この8月の総選挙の経費は683億円であるという。

 民主主義のコストとは、これらのコストをすべて積算して、GDPに占める割合を出して、国際比較するのが一番わかりやすいかもしれない。しかしながら、そのためには、何をコストと考えるかをしっかり整理しなければならないので、その作業は今後の課題とし、ここでは、自治体について考え、一般会計に占める議会費の割合を一つの民主主義のコストの例として見てみたい。議会費には、議員報酬、政務調査研究費、費用弁償、議長交際費、印刷製本費、事務局人件費等が含まれているが、選挙費用や議会の施設費は含まれていない。

 一般会計に占める議会費の割合は、一般的には自治体の人口規模によって異なってくる。規模が大きければ、議会費の割合が小さくなっている。規模の大きい政令指定都市や中核市は一般市とは仕事が異なっていることから、財政規模も大きくなり、議会費の割合が相対的に低くなっている。『平成19年度市町村決算状況調』で具体的に見ると、政令指定都市では、大阪市の0.18%がもっとも低く、ついで横浜市の0.22%、札幌市の0.23%と続き、高いほうでは、さいたま市の0.40%、浜松市の0.37%、千葉市の0.36%となっている。政令指定都市の平均は0.29%である。一般市については、もっとも低いのが夕張市の0.11%であり、群を抜いて低くなっているが、その他の市では、旭川市・長岡市・柏崎市の0.41%で、政令指定都市の高いほうと同じである。高いほうでは、勝浦市の2.16%、下妻市の1.85%、小美玉市の1.73%、村山市・逗子市の1.72%などとなっている。東京特別区については、江戸川区・世田谷区の0.40%が低いほうで、千代田区の1.11%、渋谷区の0.86%が高いほうである。特別区の平均は0.57%である。市・区の全体の平均は0.85%であるが、0.8%から1.1%の間にある団体が全体の半数を占めている。

 他方、町村については、低いほうでは島根県奥出雲町0.52%、宮崎県美郷町の0.58%、鹿児島県十島村の0.62%などであり、高いほうでは沖縄県渡名喜村の4.14%、京都府笠置町の3.45%、神奈川県清川村の3.35%などとなっている。町村平均は1.36%であるが、1%から2%の間にある町村が全体の8割を占めている。

  さて、こうした議会費の割合から考えると、議会改革の推進、議会の活性化という観点からもう少し民主主義のコストを高めてもよいといえる場合があるように感じられる。逆に、節約が必要な場合もある。では、どのあたりが望ましいのであろうか。上の事例から考えて、一般市では1%、町村では2%というような目安としての数値を出すことが可能であろうか。もっとも、ここでは、議会改革の推進という立場から、このような数字ならば民主主義のコストとして市民・住民に納得してもらえるのではないだろうか、という希望的推測値にすぎない。さらなる議論が必要である。

(むとう ひろみ 法政大学大学院政策創造研究科教授)