地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2011年10月のコラム

地方分権を考慮した自律的労使関係制度の導入

 人事院は9月30日、2011年度の一般職国家公務員(行政職)の給与等につき、月給は平均0.23%引き下げ、期末・勤勉手当(ボーナス)は現行の年間3.95カ月のまま据え置くよう内閣と国会に勧告したが、今年は異例の状況下で行われた勧告である。すでに国会に上程されている国家公務員給与を平均7.8%削減する臨時特例法案とのかねあいや現在継続審議中の国家公務員制度改革関連四法案(以下四法案と略)が複雑に絡んでいるからである。また、四法案が国会で成立すれば、人事院そのものもそして当然人事院勧告も、60余年にわたるその使命を終えることともなるのである。

 四法案による国家公務員制度改革は、各省縦割り人事改革のための幹部公務員人事の一元管理体制の整備(内閣人事局の設置)など重要な論点が含まれているが、なんといっても今次改革の要は、自律的労使関係制度の導入である。その要点は、①一般職非現業国家公務員の団体交渉権・「団体協約」締結権の承認、それとの関連で、これまで労働基本権制約の代償措置として設けられてきた人事院勧告制度の廃止、②人事院を廃止して、任用、給与、勤務時間、人事評価、団体交渉及び「団体協約」その他人事行政に責任を持つ使用者機関として公務員庁(内閣府の外局)および公平審査機関としての人事公正委員会(内閣総理大臣所轄の下)の新設、③組合結成や組合活動の保障のために不当労働行為制度の導入、④労使紛争処理のために中央労働委員会によるあっせん、調停、仲裁制度の導入、などの点にある。

 そしてこのような自律的労使関係制度の基本的考え方は、地方公務員についても導入することが構想されている。総務省が公にしている「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方」(本年6月2日)がそれであり、この考え方を示してこれまで地方六団体などにヒヤリングを行ってきたからである。

 たしかに、今回の改革は、争議権については今後の検討に委ねられていること、団結権・団体交渉権付与が除外されている公務員が存在することなど、労働基本権保障の原理からすればなお検討の余地を残していることは否めないにしても、一般職非現業国家公務員の組合結成の自由や組合活動の保障を拡大し(登録制から認証制へ。不当労働行為の禁止)、団体交渉権・「団体協約」締結権を認めたことの意義は大きい。団体交渉の対象事項をめぐって常に争点となる「管理運営事項」の問題一つとってみても、使用者側がそれを一方的に主張して団体交渉を拒否すれば、不当労働行為(団交拒否)として、第三者機関である中央労働委員会の判断を仰ぐこともできることになるなど、現行の職員団体による団体交渉制度(「団体協約」締結権は否認)とは異なり大きな前進である。

 ただ、争議行為禁止ならびに団体交渉権の制約(労働協約締結権の否認)の代償措置として設けられた人事院の勧告制度を廃止して、それに代わる団体交渉制度が設けられたとしても、それがどの程度有効な団体交渉制度といえるかなお十分検討の余地がある。改革案は、団体交渉・「団体協約」締結権を認めながら、その協約には債務的効力しか認めず、規範的効力は認めていないからである。重要な労働条件に関する事項であっても労使が合意するには、あらかじめ、内閣の承認を得なければならない場合があるとともに(国家公務員の労働関係に関する法律案14条2項)、その内容を最終的には法案化して国会に提出しなければならない(同17条1項)からである。この点は勤務条件法定主義や財政民主主義の問題と係わるが、この原則を全く否定することはできないまでも、団体交渉権・「団体協約」締結権を認める以上、今後の法案審議の過程で少なくとも従来実務上採用されている「詳細勤務条件法定主義」を見直し、法定すべき勤務条件は基本事項にとどめるなど「団体協約」締結権とのより整合的な制度改革を考慮すべきである。

 
地方公務員の場合、地公企法・地公労法適用職員については、条例・規則あるいは予算措置との関連を慎重に配慮(地公労法8条、9条、10条)した労働協約の締結を認めていること(同7条)、給与条例の定め方も「給与の種類及び基準」(地公企法38条4項)となっていることなどとの不均衡を惹起する。また、例えば団体交渉の対象となる各種手当の種類などは現行では法律で規定され(常勤職員=自治法204条2項、非常勤職員については期末手当等各種手当の支給根拠は欠如=同203条の2参照)団体交渉の対象を大きく制約しているなど問題である。換言すれば法律レベル(自治法・地公法等)で規定すべきものは基本事項にとどめるとともに(労使関係法制度にかかわる義務付け・枠付けの見直し問題)、条例に定めるべき事項と長の規則に委任すべき事項との関係(二元代表制の下での労使関係制度のあり方)などの検討もしておく必要がある。全国知事会(7月4日付け意見書)や全国市長会(7月5日付け意見書)は、首長・議会二元代表制、自治体の規模、任命権者の多様性など地方自治制度の特性を踏まえた改革の検討を要請しているが、それは当然である。また、個別意見の中には組合の影響が大きい団体では職員の待遇が厚くなり、組合が無いところでは首長の権限で一方的に人件費が削減される可能性がある点などの懸念も表明されている。地方六団体が求めているように、これらの課題について国と地方の協議の場での十分な協議が不可欠であり、さらに住民や労働側の意見なども十分聴取して地方分権の時代に相応する自律的労使関係制度の導入を期待したい。また、この制度の導入により職員が公務労働のあり方にも責任を持ち住民サービスの向上にさらに寄与する契機となることを願っている。

さとう ひでたけ 早稲田大学名誉教授)