地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2012年5月のコラム

「施策」評価

武藤 博己

 昨年度、3つの自治体における外部評価にかかわったが、3つとも今年度も継続予定である。そのうちの1つである東京都狛江市の外部評価委員会について述べてみたい。

 狛江市は99年から事務事業評価の検討を始め、01年から試行、03年から本格実施を行うなど、比較的古い段階から行政評価に取り組んできた。07年度に委員会を立ち上げて、①事務事業評価の見直し、②施策評価の導入、③外部評価の導入という3点の提言を受けて、08年から制度の見直しを行い、試行を開始した。10年には提言を受けた外部評価委員会を立ち上げ、筆者はこの段階からかかわることになった。

 この委員会では、施策評価をどのように設計するかを議論し、市民が評価するための施策レポートの作成という筆者が従来から主張していた方法が採用されることになった。この評価の考え方は、『自治総研』2001年5月号のコラム「政策評価における『施策』の意味」でも述べたように、施策とは「一定の社会的効果を有する事業のまとまり」であり、それを評価しようとするものである。たとえば、在宅高齢者の介護の領域では、ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイの3つのサービスが適切に組み合わされて、介護を必要とする高齢者にとって社会的効果を有するのである。デイサービスだけを取り出して評価してみても、高齢者にとっての効果は評価できず、全体像が見えない評価となってしまう。そうした弱点を補った方式として開発した方法である。2000年に昭島市で試行し、その報告書(財・東京市町村自治調査会『昭島市における政策評価研究報告』2001年5月)が出たものの、その後実践する自治体がなかった。

 それから10年経った2011年の段階で、狛江市が施策評価レポートを作成した。そのレポートを外部評価委員会で議論し、訂正すべき点を提言したが、この3月に訂正された「狛江市施策レポート」が公表された。(http://www.city.komae.tokyo.jp/index.cfm/36,37903,288,html)

 この施策評価レポートでは、3つの施策について10年度の実施状況が評価対象となっている。内容は、レポートごとに、現況と課題、施策体系、施策小項目の説明(そこには施策の方向性、施策展開の方針とその考え方、施策に関連する取組みの概要、施策の成果)が記述され、その後に施策の総合的評価、外部評価委員会の提言、外部評価委員会の提言に対する市の方針が述べられている。外部評価委員会の提言を受けて、市民が理解しやすい構成と内容となっている。

 本年4月29日には、市民を対象とした施策レポートの説明会が開催された。施策レポートはそもそも市民が評価するための資料として作成するものであるから、市民への説明会は作成の趣旨から考えると、当然の流れともいえる。しかし、周知期間や開催日時との関係があるものの、担当者によると参加者が1名のみであったという。いかに魅力的な施策レポートにするかも重要であるが、施策レポートの意味や政策・施策評価の重要性を理解してもらう広報活動が重要であろう。今年度は秋に施策評価市民フォーラムを予定しているので、今後の課題である。

 
また、施策で評価することによって、施策を構成する事務事業の大きさや重要度が見えてくるが、まだ不十分である。今後は施策評価と事務事業評価を結びつける視点や基本計画との関係、評価のポイントを明確化すること等が課題である。なお、施策評価の意義については、南島和久「自治体における総合計画の管理と施策レベルの評価」『評価クォータリー』2012年4月号、pp.35-45、も参考になる。

(むとう ひろみ  法政大学公共政策研究科教授)