地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2012年6月のコラム

脆弱化する自治体財政基盤

 今年は二つの市町村で、「行財政改革推進大綱」策定などの作業のお手伝いをすることになっているが、そのための調査をする中で、気のついたことがいくつかある。

 そのひとつは、市町村の地方税収の落ち込みが顕著だということだ。京都府の南部、奈良市の北に隣接する木津川市は、2006年3月に3町(木津町、加茂町、山城町)が対等合併した人口7万1千人(2012年6月1日現在)の市だ。関西文化学研都市の一部を含み、大阪圏や奈良市への通勤・通学者の流入も含めて、人口はゆるやかに増加中だ。浄瑠璃寺、岩船寺、海住山寺、当尾の石仏群、恭仁京跡などがあり、奈良平城文化圏に属する。近鉄京都線と木津から京橋、三宮を結ぶJR学研都市線とが新祝園駅で交差連絡する。

 表(決算カードから作成)で見ると、市民税所得割と固定資産税が双璧だが、その市民税所得割の動きが冴えない。税制の面では、2007(平成19)年度から大きく変わっている。前年の2006年の税制改正で、住民税の税率がフラット化され、それまでの5%、10%、13%の三段階の税率が10%に一本化された(道府県民税4%、市町村民税6%)。同時に国税の所得税からの3兆円規模の税源移譲が行われ、所得税の税率は、最低税率を10%から5%に下げるとともに、最高税率を37%から40%に引き上げ、税率構造を4段階から6段階にして所得再分配機能をやや復元している。

       木津川市主要税等の収入額推移

(千円)

 

2006

2007

2008

2009

2010

市民税所得割

3,272,031

3,864,905

3,918,589

3,872,146

3,641,915

市民税法人税割

269,197

275,905

309,927

167,910

160,871

固定資産税

3,493,746

3,545,189

3,751,012

3,755,322

3,927,459

普通税総額

7,561,083

8,250,124

8,584,516

8,396,215

8,344,228

地方消費税交付金

476,106

486,382

465,543

491,576

490,732

普通交付税額

3,655,737

4,363,327

4,193,615

4,257,059

5,286,232

臨時財政対策債

793,500

720,141

674,526

1,046,868

1,683,308

 この税制改革の結果、確かに2007年度決算では木津川市では9億円ほど個人所得割が伸び、2008年度もやや上向きであった。しかし、2009年度から減り始め、2010年度にはさらに低下している。この傾向は、市民税所得割が大きい大阪府の箕面市、兵庫県の宝塚市などでも全く同様な傾向を示す。ただし両市は高額所得者が多いために税源移譲の効果はフラット化で相殺され、小さい。

 この原因は、第一には2008年9月のリーマンショックによる世界経済の大きな景気後退にあると思われる。それに、この間に非正規雇用者の割合が全雇用者の35%にまで拡大したこと、民間平均給与がこの10年間に460万円から406万円まで低下し続けていること、など雇用構造の変化が響いているものと考えられる。税源移譲の効果は2年ほどで消失している。この傾向はそろそろ歯止めがかかりつつあるが、なお世界経済の動揺に振り回されることになることは避けられない。これに高齢化による年金生活者の増加の影響が続く。同時に、表にあるように、地方交付税のウェイトが高まり、また臨時財政対策債が急速に膨張している。加えて、今回の「税と社会保障の一体改革」の効果として、地方消費税は消費税の1%から2.2%に拡大する。また地方交付税も消費税10%のうち1.18%から1.52%に拡大する。交付税は出口ベースでは総額が1.3%増える程度だが、地方消費税は現行の2.2倍と大きい。

 一言で言えば、基幹的地方税が縮減する傾向が一方にあり、他方では交付税や臨時財政対策債への依存度が高まっている。安定し自律した地方税制と地方財政制度の構築に向けてあらためて汗をかかなければなるまい。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)