地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2012年11月のコラム

進化し多様化する地域雇用政策

 自治体の雇用労働政策は、それまで国と府県の地方事務官で行われてきた施策の周辺で、一部自治体によって開発されてきた。もちろん雇用労働政策の行政主体は厚生労働省であることには変わりがない。一方で、出先機関の地方への移譲が議論されてきている。

 したがって地域雇用労働政策=地域雇用政策という概念自体が自治体の政策の中で大きな地位を占めてこなかった。「従来、日本では地域雇用政策の『不在』が指摘されてきた」(佐口和郎東京大学経済学部教授『マッセOSAKA』12年8月)。また、高度経済成長期から1990年代初頭のバブル経済期まではそれでも十分だったのである。むしろ労働力不足が常態化していた。ところがバブル崩壊後、就職氷河期を経て「終身雇用制」が崩れ、非正規労働者の割合が急速に高まり、現在は正規労働者6割と非正規4割の時代に入ろうとしている。失業は誰にでも訪れる時代に入っている。これらの事情を背景に、「2000年代に入って、地域雇用政策はその進化を本格化させることになった(同)」という。

 この7月に公表された政府の「雇用政策研究会」(座長:樋口美雄慶應義塾大学商学部教授)においても「新たな地域雇用創出の推進」と1節を起こしている。ただしそれは「リーマン・ショック後の雇用創出基金事業等を契機として、自治体にもその取り組みの萌芽が見られる」という認識だ。

 2000年代の動きとは、制度的には、自治体に雇用施策を講じるよう努力義務を課した2000年の「改正雇用対策法」と、規制緩和の一環として民間と地方自治体に無料職業紹介事業を開放した2003年の「職安法改正」から始まったと言える。

 おそらく、これまでの個々の自治体の施策(岡山県津山市の「雇用労働センター」など)を超えるものとしては、大阪府が2000年に始めた「地域就労支援事業」が初めて。この事業は障害者、母子家庭の母親、中高年齢者、同和地区出身者、学卒無業者その他の「働く意欲・希望がありながら、雇用・就労を妨げる様々な阻害要因を抱える方々」を対象に、市町村が実施する。市町村に「地域就労支援センター」を設け、「就労支援コーディネーター」設置費500万円の半分を補助する。現在は2008年の橋下行革で補助金が交付金に変わっているが、政令指定都市と中核市である大阪市、堺市、東大阪市を含む全市町村で実施されている。大阪市や豊中市、和泉市などは合わせて無料職業紹介事業も行なっている。

 その他の領域でも自治体による各種の就労支援施策が展開されるようになった。まず障害者施策では障害者雇用促進法(昭和35年)のもとで、遅々として上昇しなかった雇用率が2003年頃から上昇に転じ、2010年には民間企業の雇用率が1.68にまで上昇してきている。その影ではジョブコーチの配置やトライアル雇用などの支援施策が試行されてきた。

 最近になって、生活保護受給者220万人を超える中で「生活保護受給者の就労支援」「社会生活自立支援」や「貧困の連鎖」を絶とうとする「子ども支援」が目立つ。この領域では2004年度からの「釧路方式」がよく参照される。居場所を作って生活自立支援を行い、仕事体験、中間的就労を提供し、子供の居場所と学習支援に「冬月荘」を運営する。

 これにリーマン・ショック以後は、内閣府などの「緊急雇用創出基金事業」や「ふるさと雇用再生基金事業」などの基金事業が大体3年度間の資金として活用され、様々な事業おこしや、短期の雇用に使われている。

 深刻なのは若者の失業率、離職率が高いことだ。ニートや引きこもりの若者を就労の現場まで寄り添っていくためのジョブカフェや若者ハローワーク、職業訓練、職場体験の経験も蓄積されてきた。さらに国のレベルでは実質的なワークシェアリングの導入や、雇用保険や医療保険、厚生年金保険の非正規労働者への拡大の議論もある。これはいずれもこれまでの雇用構造や産業構造の転換に伴う地域雇用政策の芽である。

 つまり、ハローワークなど従来の行政が担ってきた一般就労施策では対応できない新しい雇用ニーズが大量に生まれ、それを自治体がカバーせざるを得ない時代に入っている。このことは実は、人口減少時代に入り、「都市縮小」の趨勢が本格化する中で、どう安定した暮らしを地域で再構築するかという問題にチャレンジすることでもある。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)