地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2013年4月のコラム

地域福祉と介護保険

 1997年12月に介護保険法が成立。2年間の準備をしたうえで、2000年4月から施行されて今年で13年目になる。そのころからすると、介護保険制度も地域福祉のあり方もかなり大きな変化が生まれている。まず介護予防を重視して、要介護の認定基準に要支援の2段階を付け加え、介護保険の中に介護予防サービスができた。グループホームなど「地域密着型」の在宅介護施策が取り入れられた。介護予防を主眼に「地域包括支援センター」が設けられ、保健師・社会福祉士・主任ケアマネージャーを必置とした、など。2002年には社会福祉事業法改正で「地域福祉計画」策定が市区町村の努力義務とされている。

 しかし制度ができても、高齢者とその家族の抱える悩みや問題は基本的には変わらない。いやむしろ問題は深刻になっているともいえる。

 まずヘルパーや理学療法士、ケアマネなどのケアスタッフの不足がある。そのスキルの向上と継承が難しい。これは介護報酬の低さに基本的な問題がある。

 公的支援に頼らずがんばる夫婦のみ世帯が多いし、子供たちからの援助も薄い場合が少なくない。そこに介護疲れから虐待や自死が生まれる。介護保険ではケアする人をケアすることができていない。

 大和郡山市ではこの2月、91歳の寝たきりの妻を介護していた96歳の男性が、「自分が死ねば寝たきりの妻が困る」と妻を殺害し、自らも首を傷つける事件があった。発見者は訪問したヘルパーだった。このお宅には、地域包括支援センターの社会福祉士が係わり、支援を拒否していた男性と信頼関係をつくって、ヘルパーが入れるようになっていたのだが。地域包括支援センターは係わった民生委員やヘルパー、介護保険課などとケース検討会議を開き、何が足りなかったのか考えていくという。個別の検討を重ねる中で手探りが続く。

 65歳以上が払う介護保険料の上限は5,000円だという意見も強い。昨年から始まった第5次介護保険事業計画での全国平均の保険料はすでに4,972円だ。2012年度から2014年度まではこれでいくにしても、それ以後、介護の必要な人が増えていく中で、給付水準を引き下げず、保険料をあげず、制度は維持できるかという基本問題もある。

 福祉や保険制度の変化は、このような問題の深刻さに対応できているのだろうか。今のところはばらばらだが、可能性はあるのではないかと思う。まず一つは、政府も進めてきた「施設から在宅ケア」または「地域ケアへ」という流れである。これはどの調査でもそうだが、「最期は家で」という本人の意思を尊重すべきだという想いに沿ったものだ。ただし、行政からすると財政負担の抑制という要求のほうが本音である場合が多いのも事実である。しかしぜひ実現すべきであるし、その方向性も出てきている。

 もちろん施設は必要であり、それを地域ケアの拠点の一つとして活用できるかどうかが分かれ目になる。在宅介護をするケアラーを支えるためにも施設は必要だ。先の96歳の方の場合も、自分が亡くなった後、安心して妻を預けられる施設を知っていたら、と思う。

 もう一つは、地域包括支援センターを、地域の人材や組織、機関を取り結ぶ本来のセンターに鍛えていくことである。それも高齢者向けに限定せず、障がい者、ひとり親、子ども・子育てなどの領域を広くカバーする。これは、大阪の豊中市や堺市で定着してきた「コミュニティ・ソーシャルワーカー」の機能をあわせもつものでありたい。

 もう一つは、『医療との連携』である。簡単に「連携」ができると思えないが、まずお互いに知り合うところから始めることが大事だ。ある市では医師会のドクターとケアマネージャーが毎月一回、情報交換会を続けている。「地域包括ケア」とは、そのようなところから始まるのかもしれない。

 そして生活保護受給者の地域での支えを「地域福祉計画」の中にしっかり位置付けることである。できれば「半就労半福祉」の状況にまで展開できるといい。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)