地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2013年11月のコラム

政策課題の連鎖と地域社会の形成

 自治体による地域社会の形成、行政サービス提供体制作りについては、この間の地方分権改革の進展や自治体の創意により、その自治的主体性が大きく拡大してきている。しかし、人、金、モノに事欠く多くの自治体にとってこれらの体制作りは、国・地方(垂直的連携)、自治体相互(水平的連携)、さらに官民(官民連携)などの連携なくしては実現が困難な場合が多い。総務省が、本年6月の第30次地制調の答申を受けて7月に二つの研究会を発足させ新たな連携のあり方の検討を開始したのは当然の成り行きであろう。

 ただ、問題は、各種の政策課題の解決が自治体や地域だけでは必ずしも完結するとは限らないことから、政策課題の連鎖と多様な政策遂行主体の存在を前提にした検討が要請されることである。例えば、少子高齢化時代にあって次世代育成のための子育て環境整備問題である。それが凝縮されて現れるのは待機児童問題であるが、それへの対応だけではことは解決しない。家庭と仕事の両立、働き方そのものから抜本的に見直すことが必要となる。日本経団連や連合がかねてからこの課題に関する各種の提言を行い(例えば経団連「子育て環境整備に向けて」<2003>。連合「次世代育成・子育て支援に関する『要求と提言』」<2010>)、企業や組合など広く社会に協力を要請してきているのはそのためである。

 経団連の行った追跡調査(2013・7・29)の育児に関連する項目を見ると、法定を上回る育児休暇制度を付与している企業が64.8%(回答数307社)、フレックスタイム制度採用56.0%、時差勤務制度採用42.7%、保育施設費用補助・ベビーシッター使用補助41.7%など、その取組状況は一定程度進捗している。ただ、職場と住いが離れている場合が多いと思われる子育て世代に必要なのは事業所内託児所であるが、その施設を備えている事業所は14.0%に過ぎない点は気になるところである。

 ところで2010年4月時点で待機児童数全国ワーストワンであった横浜市は本年4月3年間で待機児童ゼロを達成したと発表している。財政力など好条件を備えた横浜市だからこそそれが可能であったと評する向きもあるが、しかし、その先進的取組は高く評価されてしかるべきである。保育室、NPO型家庭的保育など多様な保育の推進、私立保育園での預かり保育の拡充、保育コンシェルジュの配置、市長のリーダーシップの下で緊急保育対策室を設置するなどの推進体制の構築、保育所整備用不動産取得のマッチング支援、保護者への情報提供、保育コンシェルジュによる相談などアフターフォロー体制、それを裏付けるための予算措置(2009年度約72億円<一般会計予算の4.5%>、2012年度には157億円<同6.2%>。以上同市記者発表資料)など市独自の取組を進めているからである。

 だが、横浜市のこのような成果は、市の創意と努力によるところが大きいとしても、市政あるいはその地域において自己完結的な形で達成されたわけではない。地域社会の協力と同時に国の支援策の活用が大きく功を奏していることは疑い無い。国の具体的支援策の一例は、厚労省の「待機児童解消加速化プランの支援パッケージ」<2013・5・10>である。①賃貸方式や国有地の活用(政府は最近公務員宿舎などの国有地を保育所など社会福祉施設へ本格的に転用する方針を表明 ― 日経2013・7・18。筆者もかねてからこのことを指摘してきた ― 「荒唐無稽か ― 公務員宿舎に福祉施設を合築」本誌31巻11号2005・11) ②保育士確保のための助成 ③小規模保育事業など新制度の先取り ④認可を目指す認可外保育施設への支援 ⑤事業所内保育施設への支援などである。そしてこれらの支援策は、希望する自治体が手を挙げて活用する方式であり、地方自治への一定の配慮がなされている(参加自治体数351市区町村。本年7月31日時点。以上厚労省、2013・8・8)。

 それ故、今後の新たな行政サービス提供体制のあり方の検討は、すべての行政領域に共通する体制作りに加えて、政策課題ごとに政策の体系と関連政策の連鎖を前提にした上で、国・地方、自治体相互、地域社会、産業界、労働界など政策実現に係わる多くの政策遂行主体を想定した連携のあり方を構想する必要がある。このことは同時に分権時代にふさわしい新たな地域社会の形成、国・地方関係のあり方を描く一助となると思われる。

さとう ひでたけ 早稲田大学名誉教授)