地方自治総合研究所

MENU
月刊『自治総研』

2014年5月のコラム

自立について考える

 自立と言う言葉を否定的に捉える人は少ないだろう。自立の立は人が両手両足を広げて地上に立つ形の象形である。這えば立て、立てば歩めの親心、三十にして立つなどの言葉もあるように、自立とはそうありたい、早くそうなりたいと考えてきたように思う。
 広辞宛によると自立とは「他の援助や支援を受けず自分の力で判断したり身を立てたりすること」とある。何事も他からの強要を受けず自ら判断できることは大切なことである。それでも私たちがこの社会で生きていくときに他者と一切関係を持たないで一人で生きていくことなどできるのだろうか。
 安倍晋三首相は第183国会の施政方針演説で強い日本を創るためとして「私たち自身が誰かに寄りかかる心を捨て自らの運命を切り拓こうという意思を持たない限り私たちの未来は開けません」と述べた。国民に自立せよと言っている。自立と言う言葉が他者に向けて発せられたとき自立はどんな意味を持つのだろうか。
 障がい者の自立を支援するとして障害者自立支援法(2006年10月成立)と言う法律があった。内容は応益負担の強化、介護保険法優先など自立支援ではなく障がい者を生活困窮に貶めるものだと全国で違憲訴訟が起き、当事者をはじめ激しい批判の声が湧き起こった。障がい当事者、事業者、有識者等からなる会議が設置され見直しの議論が始まった。原告と厚労省の和解協議を経て2012年6月障害者自立支援法は廃止となり、障害者総合支援法に変更となった。新しい法律は自立の表現に変えて、基本的人権を享有する個人としての尊厳との考えにたち、法律名から自立の表記は消えた。
 この間日弁連は「生きるために必要不可欠な支援を『益』とみなし『障がい』を自己責任とする仕組みは障がい者支援の基本理念に反する。」(障害者自立支援法廃止を求める日弁連決議・2011年10月7日)を発した。わずか8年前から2年前までに起きた法律の変遷である。
 いま生活困窮者自立支援法が制定され2015年4月施行予定である。また自立と言う文言が出ている。法の趣旨は生活保護に至る前の自立支援の強化を図るため生活困窮者に対し自立支援相談事業、住居確保給付金支給、就労準備、就労訓練支援事業などを行うとある。
 振り返ってみると自立心とか自己責任の言葉が強調され始めたのは社会保障費の抑制が議論され始めた頃と軌を一にするように思う。この法律が生活保護費の支給抑制ありきで運営されてはならない。長い間定職に就けず困窮生活を続けている人の多くは、自分の努力や能力が足りない、悪いのは自分だ、と自己を責めている。自立を妨げている障害を取り除き、働くことが当事者の自己実現に繋がっていくような就労支援事業であって欲しい。安易な自立心や自己責任を強調する風潮が強まっていく中で社会の問題意識が拡散していく状況がある、よく目を凝らし本質は何かを確かめる必要がある。
 最近読んだ本の中に「自立とは依存することである」の言葉があった。自立と依存、相容れない響きだが、現実生活の中で何の不都合があるだろうか、むしろこちらのほうに親しみを覚える。じっくりと考えたい。

 

(おかべ けんじ 公益財団法人地方自治総合研究所理事長)