10月も末になると、来年度の予算が気になってくる。今年度、16年度の地方財政計画については、本誌の2月号で飛田研究員が、また月刊自治研2月号で其田研究員が問題や課題を指摘している。その主な論点は、5つほどあるようだ。第一は、経済のグローバル化に対応するとして16年度予算で前倒しされた法人関係税の実効税率の30%以下(16年度29.97%)への引き下げに伴う地方財源確保の問題である。第二は、政府の財政諮問会議とそのワーキンググループでの論議から生まれた、基準財政需要額積算に行政改革の成果を反映させる方策として16年度に導入されたトップランナー方式が制度にどのような影響をもたらすか。第三は、2008年のリーマンショック以来の歳出特別枠と交付税の別枠加算の扱いである。これは同時に、一般財源総額確保の内実を問うことになる。第四には、国税である地方法人税の創設と交付税特会直入、それに地方法人特別税の廃止と法人事業税の復元、法人住民税の税率引き下げの影響が、自治体財政にどのような影響をもたらすか。また税源偏在と財再調整の仕組みをどう考えるかも課題である。 もう一つ、五番目に、消費税の税率の10%への引き上げを、2019(平成31)年10月まで2年間再延長することが6月1日に正式に表明されたことである。これによって、消費税の交付税率を現行の1.40%から1.52%に(国の消費税の22.3%から19.5%に)、地方消費税率を1.7%から2.2%に、合わせて10%のうち地方の取り分を3.10%から3.72%に引き上げる改革も2年先送りになった。関連法案は16年秋の臨時国会に提出される。ここではこの問題に少し触れたい。 この消費税増税分は全額、社会保障4経費および社会保障施策に充てることとされている。社会保障4経費とは年金、医療、介護、子育てに係る経費(これは今回追加された)を指す。消費増税8%段階では、その増収分8兆1千億円は、社会保障の充実策に5,000億円、基礎年金の安定財源(基礎年金の2分の1を国庫負担とする)に2兆9,500億円、高齢化による社会保障費の自然増分に1兆4,500億円、そして2,000億円が物価上昇に対応するとされていた。 その中の社会保障充実策5,000億円については、待機児童解消など子育て支援に3,000億円、低所得者の国保保険料軽減に620億円、高額療養費制度の拡充に50億円、難病対策に300億円、医療・介護のサービス提供体制整備に1,000億円などと示されていた。 このように、増税分も制度の安定化にほとんどの財源が充てられ、これからの少子高齢化と人口減少時代に向けた財政構造転換に向けられる財源はごく限られていた。たとえば、保育士や介護福祉士、ヘルパーなどの平均給与(女性非正規の147万5千円)を359万円(14年度民間給与実態調査での女性正規労働者平均)まで引き上げる財源などが必須だが、それが用意できない。そして中小企業に対する非正規社員の正規化への支援費などもあってしかるべきだろう。労働基準監督官の大幅増員やハローワークの8割を占める非正規職員の正規化の財源もない。したがって増税の規模はもっと大きくなければならない。そのためには、消費課税とともに所得税の累進度の一部復活と相続税や利子配当課税、株式売却益の適正化など資産課税を組み合わせた税制改革を議論する必要がある。所得課税や資産課税の拡大を避けたうえで、もっぱら消費課税という大衆課税であり、低所得者ほど負担が重い逆進性がある課税にのみ依存するべきではない。大きく傷ついた租税の再分配機能を復元する必要があることは明白である。 少なくも来年度に向けては、各団体で見通せる社会保障施策の財源配分の案について、その将来像を議論してもらうとともに、増税が議論できる市民的環境づくりを進めることが望まれる。その際、井手英策慶応大学教授などの「分断社会論」や「格差論」、「尊厳の平等化とユニバーサリズム」論などが参考になると思われる。
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