地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2017年4月のコラム

後期高齢者医療制度の適用を受けて

 昨秋、後期高齢者になり、後期高齢者医療制度の適用を受ける身になった。医療保険の種類が切り替わる誕生日当日の少し前に郵送されてきた「被保険者証」を手にして、「ついに来た、あとは余生ということか」くらいの受けとめ方だったと思う。現に日記がわりのPCファイルには、誕生日の日付でそのような表現を含んだ短歌もどきが書き留められている。
 保険証そのものについては、ビニール袋に収められたそのサイズが、それまで医療機関にかかるときに使っていた保険証(私学共済事業団の任意継続加入によるもの)よりもずっと大きく、財布のカード入れにとても収まらないサイズなので、これでは、受診のたびにそのつど机の引き出しから取り出す手間をかけねばならず、うっかり者の自分には不都合だなと、とっさに感じたのだった。だが、そんなことよりも、かねてから老人医療制度の展開について自分なりの関心をもっていたこともあって、私にしてはめずらしく、同封されてきた小さなパンフレット(東京都の広域連合発行の『後期高齢者医療制度のしくみ』)の最初のページを開いてみた。そして驚いた。
 冒頭に配置された「後期高齢者医療制度とは」の項目表記に続く説明文の本文は、「75歳以上(一定の障害がある方は65歳以上)の方を対象とする医療制度です。」これだけである。続いてその下にある小項目「被保険者となる方」に記載の一般的な対象者につき、「75歳になられた方は、それまで加入していた医療保険(国保・健康保険・共済など)から自動的に後期高齢者医療制度の被保険者となるため、加入手続きは不要です」との注記がなされている。
 制度の根拠法も記されていないことが腑に落ちなかったので、都の広域連合のホームページ(東京いきいきネット)ではどうかと、そちらを確かめてみた。そこでは本制度について「平成18年6月、健康保険法等の一部を改正する法律により、老人保健法が改正され、平成20年4月から新たに後期高齢者医療制度が創設されました。/老人保健制度は、国の法定受託事務として区市町村ごとに事務を行い、75歳以上の高齢者は、国民健康保険や被用者保険に加入したうえで老人保健法に基づく医療給付を受けていました」のパラグラフで始まるそれなりの説明がなされている。しかしそこでも、制度の根拠法が「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年8月17日法律第80号)であることには触れられておらず、したがって、私たちの多くになじみのある1982(昭和57)年制定の老人保健法から、今世紀初頭の小泉内閣の終盤、第164回通常国会において根拠法の名称が上記タイトルに改題され、その2年後(2008年)の春から施行されるようになったといういきさつについては何の記載もない。いわば「知る人ぞ知る」の扱いに委ねられているのだ。
 あるいは、まさかとは思うが、今でも議論がある「後期高齢者」の呼称について余計な情報提供になることを危惧したのだろうか。そんな扱いに疑問を抱いたまま同封パンフレットを閉じてしまったので、次のページにある「よくある質問と回答」欄の最初の質問、すなわち「本人が75歳になると、74歳以下配偶者の保険はどうなりますか?」の回答に付せられた小文字による注記、「後期高齢者医療制度へ移行する方に扶養されている方は、必ず国民健康保険などへ加入手続きをしてください」の一文など目にしなかった。そのため、まさしくその件にかんして何の公式通知もないことに苛立って、私が地元の市役所に出向いたのは、保険切り替え日の3日前だった。「よくある質問」ならば、もっとそれにふさわしい取り扱いがなされてしかるべきではないのか。
 とにもかくにも、本制度の適用を受ける身になった私自身の最初の対応が、広域連合および地元市役所による関連事務処理への疑問や苛立ちから始まったこと、それはまぎれもない事実である。

 

いまむら つなお 中央大学名誉教授)