地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2017年5月のコラム

集中する社会保障制度改革のインパクト

 来年度、2018年度は、大きな社会保障制度改革が重なる。この改革は市町村と都道府県の関係にもかなりのインパクトが予想される。新たな権限付与などで、都道府県の役割とガバナンス(統治力)が強化され、市町村へのコントロール機能が今まで以上に強くなる可能性がある。これは3月12日の政府の経済財政諮問会議で、榊原定征経団連会長ら民間議員5人の医療費と介護費の一体的改革を強く求める提言の方向そのものである。
 この制度改革は、第1に「国民健康保険の都道府県単位化」が行われることである。それとならんで第2に「介護保険第7期事業計画」が始まる。今年度中に各市町村では介護保険運営協議会で新しい65歳以上高齢者(第1号被保険者)の保険料が算定される。
 また、第3に介護事業では、2017年4月から要支援ⅠとⅡの軽度者への「デイサービス」と「生活支援の訪問サービス」が介護保険からはずれ、市町村のサービスである「新しい総合支援事業」となっている。これが多くの市町村ではうまく移行できていない。第4には、医療と介護で不足する人材確保のために、その給与など待遇改善の措置が期待される「医療報酬」と「介護報酬」が同時に改定される。これが特に小規模な事業者の経営にどう響くかも大問題である。
 第5には、昨年度までに各都道府県で策定された「地域医療構想」で、団塊の世代が後期高齢者に移行し始める2025年までに、入院ベッドを15万床削減する見通しが立てられたことである。増大する医療需要を病院から在宅へと転換することで抑制する。
 まず、第1の国民健康保険の財政責任を都道府県に移行させる改革である。これまでは市町村が国保の自治的な運営主体であった。それを高齢化と少子化の進行に伴い、その財政基盤を安定させ、保険者ごとの大きな格差を調整するためとして、国民健康保険は都道府県と市町村が共同の保険者となる。都道府県が国民健康保険財政の責任者として市町村からの納付金の額を定め(国のガイドラインに沿って)、市町村に対して保険給付費交付金を支払う。保険料は今までのように市町村が定め、徴収する。その際に、都道府県が定める市町村ごとの納付金が考慮される。都道府県は「都道府県国保運営方針」を定める。そこでは、市町村における保険料の標準的な算定方法を定め、その徴収の適正な実施について、および保険給付の適正化について定める。これで都道府県が、保険料の算定方法や適正な保険給付などに枠をはめることになる。
 またここでいう市町村から都道府県への納付金は、標準的な保険料をもとに算定されるが、それを100%納付することが求められる。ところが、現行では保険料の徴収率は90%程度に過ぎない。今までは徴収率が低い団体は、赤字補てんのために「一般会計法定外繰り入れ」で補うか、「繰上げ充用」で賄ってきた歴史がある。これに直接、都道府県が手を入れることになりそうだ。それは、保険料の強制的な引き上げや保険給付の引き締めにつながる懸念がある。
 第3の介護保険から軽度者をはずし「新しい総合支援事業」へ転換することは、この4月から全市町村に義務化されたが、そのサービスを担うヘルパーや事業者が市町村で未整備であるため、軽度のサービスを使えなくなった利用者の重度化が懸念される。それが結局、介護給付費用の増大に結果する可能性がある。たとえば、京都市がこの4月から始めた「訪問支えあい型ホームヘルプサービス」の担い手ヘルパーは市計画の6分の1しか確保できていない。市は、定年後間もない元気な高齢者や主婦らの参加を想定して養成研修を開いているが、定員の半数にも達していない。これでは、軽度の要支援者への支援を切り捨てることになりかねない。
 市町村での医療費や介護費用の削減には、埼玉県和光市のように食生活の改善から始まる健康寿命を延ばすことを基本に、当事者と家族を包み込んだ丁寧なケアマネージメントと、寄り添い型でADL自立支援を基本とした地域ケア会議の確立こそ必須である。これらが、「新しい総合支援事業」ではなおざりにされる可能性が高いのである。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)