地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2017年12月のコラム

自治体の働き方改革のこれから

 政府は、17年秋召集の特別国会の会期を、大幅に延長したが、与野党対立が予想される重要法案については、1月の通常国会まで先延ばしする。そのうち働き方改革のための関連7法案では、理念を雇用対策法に位置付け、残業代ゼロ制度は労働基準法改正で、残業時間の上限規制も労働基準法改正で、そして同一労働同一賃金についてはパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の見直しで行う。
 残業代ゼロ制度は紆余曲折はあったが、連合は反対にまとまった。残業時間の上限規制については、評価する声の一方、上限を月100時間といった過労死ラインに設定していることなどへの強い反対意見がある。同一労働同一賃金についても、正規労働者と非正規労働者の大きな格差をいくらか是正する効果があるが、むしろ格差を固定するものになりかねないとの懸念もある。
 地方公務員の世界では、この働き方改革の同一労働同一賃金への動きから派生するかたちで、非正規職員の待遇改善を目指すとして、既にこの5月に地方公務員法と地方自治法が改正され、20年4月施行への準備が進む。
 今回の「働き方改革」は、政府や経団連の生産性向上を柱とした「働かせ方改革」の色彩が強い。とは言え、世界的に見て際立つ長時間労働を社会的に転換する好機ではある。だが地方自治体の対応は積極的とは言えない。財政面での制約から人件費の増に結び付く改革には及び腰のようだ。しかし、今度の働き方改革の動きを強く推したのは、電通の高橋まつりさん(24歳)の過労自殺であったことは忘れられてはならない。また、NHKの女性記者住戸未和さん(31歳)の2013年の過労死についてご両親があらためてNHKに公表するよう強く求めた結果、NHKが公表することとなったのも、時代の趨勢だ。公務職場では、2015年に長時間労働が原因で亡くなった34歳の大分県職員(男性、企画振興部所属)についてこの3月に労災認定され、県はこの12月1日に和解金を払い、再発防止策を講じると発表した。
 地方自治体の場合、働き方改革への取り組みには、3つの側面がある。第一には、公共性を担保する公共団体として、民間の働き方改革を支援し、そこに働く市民の生活と権利を守る任務である。たとえば、「公契約条例」の制定と運用や、請負契約における「総合評価一般競争入札」の拡大によって、公契約の相手方である民間企業の働き方を誘導することが求められる。評価基準として、障害者雇用率の達成程度、セクハラの相談窓口の設置状況、ワークライフバランス企業認定の存否、などを設定し適用範囲を拡大するなどが求められる。
 第二は、自らの職場である県庁、市役所における「働き方改革」である。長野県は県庁に勤務する職員を対象に、終業から翌日の始業まで一定時間を空ける「インターバル制度」を10月から試験導入している。終業から最低でも11時間の休息を確保する。例えば午後10時まで働いた場合、翌日は午前9時開始となる。このインターバル制度は連合が導入するよう求めているが経団連は拒否しているものだ。川崎市は5月から、午後8時以降の時間外勤務を原則禁止する、業務改善や女性の活躍推進など全庁的な働き方改革と合わせて進める。市は昨年11月に「働き方・仕事の進め方改革推進本部」(市長が本部長)を設置。午後8時に消灯する。夜間に市民との会議やイベントがある場合、勤務時間を朝や夜にずらす時差勤務を試行している。
 第三には、自らの非正規労働者(特別職、臨時嘱託、パートなど)の待遇改善を現状の水準を必ず超える基準で達成するよう追及することである。「会計年度任用職員」への転換にともなう「雇止め」や、従来の常勤職員と同様の労働時間の短縮でパート労働者に切り替えられることや、事実上の再任用されてきた実績を、一年に制限されるようなことがないよう監視していくことなどが求められる。フルタイム労働者の諸手当支給を保障することと、パート労働者の期末手当のほか、少なくもパート労働法に準拠した有給休暇などの給付も追及することが望まれる。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)