地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2018年10月のコラム

ふるさと納税を嗤う

 全国紙の今年9月11日付夕刊、翌12日付朝刊で、ふるさと納税制度改正に関する動きがいっせいに報じられた。総務省が昨年4月と今年4月の2度にわたって自治体に通知=技術的な助言(地方自治法第245条の4)を出し、①寄付額に対する返礼品額の割合を3割以下にすること、②返礼品は地元の産品やサービスに限ることを要請したが、なお全自治体の2割あまりで適切な対応がなされていない。そこで政府は、①、②の要件を満たさない自治体を同制度の適用対象外とする税制改正を行い、早ければ2019年4月からの施行をめざす方針だ。そうした内容である。
 自治・分権の観点からすればそもそもおかしな制度をつくっておいて、だからおかしな事態が発生したというのに、根元はいじらずおかしな規制を始める。わたしにはこの制度改正の動きは、おかしなことの3段重ねとしか思えないし、そう嗤うほかない。
 ふるさと納税をめぐる実状は、客も店舗も損をせず、その分は他の誰かにツケを回す不当に出玉のいいパチンコ店を開業できる制度を国がつくり、客に遊興せよと囃し立てておきながら、各店舗が営業努力を始めると、やれ景品が豪華すぎる、出玉と景品の交換率がよすぎると難癖をつけているようなものである。そのうえ今度は、いうことを聞かない店舗にはこれまでどおりの営業は認めないと息巻き始めている。
 ふるさと納税の規模は、2008年度制度導入当初の81億円から2017年度の3,653億円へと急成長したが、それは途中2回の税制改正をはさんで、いまの例えを使えば出玉率をより不当に引き上げたためである。自治体間の返礼品合戦もそれにともなって生じた当然の現象にすぎない。
 具体的に説明する。年間700万円の給与収入があり、所得税の限界税率20%適用の納税者が3万円のふるさと納税をすると仮定する。その場合、制度適用下限額=自己負担額2,000円以外の2万8,000円のうち、所得控除によりまず5,600円の所得税還付が受けられる。残りの2万2,400円は、居住自治体の住民税からすべて税額控除される。
 税額控除分は地方交付税基準財政収入額の減に反映され、算式上、基準税率係数0.75を乗じるからつまり1万6,800円の減となり、当該自治体が交付税の交付団体ならその分は交付税で手当てされる。別の言い方をすると交付税にツケが回される。交付税で手当てされない0.25分つまり5,600円は当該自治体にツケが回り、それだけ税収が純減する。当該自治体が交付税不交付団体であるなら、2万2,400円がまるごと自治体歳入減になる。
 その一方、ふるさと納税を受ける自治体からすると、このケースでいえば3万円は地方交付税基準財政収入額の算入対象外なので、純粋な歳入増になる。返礼品を用意する場合、その事務コストに3,000円かかるとして、納税者の自己負担額も考慮するなら、返礼品額Xは、2,000円<X<2万7,000円(3万-3,000円)の不等式に収まる範囲内で設定するのが経済合理的である。仮に1万4,500円の返礼品を用意したとすれば、その自治体も納税者も等しく1万2,500円の利益が得られる。
 つづめていうと、ふるさと納税は、制度適用下限額より多く上限額より少ない範囲で、納税者が本来その居住自治体で納めるべき住民税と所得税を他の自治体に横流しするしくみである。自治体からすればこれはゼロサムで税を奪い合うゲームにほかならないから、ゲームに勝つために先に例示した不等式に収まる範囲内で返礼品の価額をできるだけ上方に設定し、その結果、自治体間で返礼品合戦が過熱するのはごく自然な成り行きである。
 いまするべきは、技術的助言を制度的強制に切り換え、自治・分権の原則をさらに歪めて、返礼品合戦を抑制することではない。ふるさと納税制度のそもそもの不当さを根本から見直すことである。まともな寄付文化をどう育てるかを根本から考え直すことである。

 

こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授)