地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2019年11月のコラム

幼児教育・保育無償化措置の影

 この10月から消費税10%時代が始まった。同時に、この増税分のうちの8千億円を使った幼児教育・保育の無償化も動き出した。3歳から5歳の子持ちの家計の負担は確実に減る。所得の多い家庭では、特に恩恵がある。一方で、給食の副食代が徴収されることで、かえって負担が増える世帯もある。また保育園に落ちた親子は、まったく恩恵を受けられないので、格差が広がるおそれがある。
 これらの弊害は、制度設計が幼児教育への展望を持たない場当たり的なものであったことが原因であると指摘されている。
 さらに日本社会の分断を加速する可能性もある。それは、幼児教育・保育の無償化が外国人学校の幼稚部を対象から外しているからだ。
 次は、10月18日配信の共同通信のニュースだ。「今月開始の幼児教育・保育の無償化措置の対象から『各種学校』に分類される外国人学校が外された問題で、排除された朝鮮学校幼稚園やインターナショナルスクールの関係者が18日、東京都千代田区の衆議院第一議員会館で集会を開き、排除は不当な差別だとして撤回を求めた。立憲民主党と国民民主党、社民党の国会議員も加わった。
 東京都内の朝鮮学校幼稚部に子が通う宋恵淑・保護者連絡会代表は、『政府は各種学校の幼稚園に通う園児の規模を把握しながら、無償化対象に含めるかどうかの議論もしていない。子どもの人権を考える視点が抜け落ちている』と政府方針を批判した。」消費税は外国人家族も等しく負担しているのに、である。
 高等学校では、高校授業料無料化が民主党政権の2010年から始まり、そのときは、各種学校の高等部にあたる学年については、インターナショナルスクールや韓国学園、朝鮮学校についても無償化されている。(高等学校等就学支援金制度の対象として指定した外国人学校等の一覧参照)。しかし、当初無償化対象だった朝鮮学校の高等部に対しては、文科省の省令改正で2013年4月から無償化対象から外された。その理由は、当時の下村文部科学大臣は、12月の記者会見で「拉致問題の進展がないこと」や朝鮮総連と「密接な関係」を理由としてあげた。
 朝鮮学校側が訴訟を起こし、2017年7月に大阪地裁が「教育の機会均等」うたった無償化法の趣旨に反するとして国に処分の取り消しを命じた。しかし、大阪高裁は2018年9月に地裁判決を覆している。
 外国人の母国語学習については、スウェーデンでは、無料で保障されている。「母国語の学習とは、筆者のような日本人(外国人)とスウェーデン人が結婚して、子どもをスウェーデンで育てる場合、日本人先生を3歳から10年以上無料でつけて、日本語(もうひとつの母国語)を教えてくれる制度だ。もしその子のスウェーデン語に問題が出てくれば、スウェーデン人ヘルプ先生の登場となる。どちらもスウェーデン人の負担だ。」(遠山哲夫『北欧教育の秘密』柘植書房新社、2008年7月)。
 文科省は外国人学校幼稚部を除外した理由を、「幼児教育を含む個別の教育に関する基準とはなっておらず、多種多様な教育を行っており、法律により幼児教育の質が制度的に担保されているとは言えない」からだと説明している。しかし、今回の無償化はベビーシッターや一時預かりも対象になっているので、多種多様な幼児教育・保育を対象としている。どうして外国人学校だけが「多種多様」だからと排除されるのか、説明になっていない。外国人だから排除するのなら、地方自治法第10条にも違反する。同法は、その地方公共団体に住所を有する住民はその地方公共団体の住民とする、住民は役務の提供を等しく受ける権利を有する、と定めているからである。外国人は住民で納税者なのだ。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)