地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2020年3月のコラム

自治基本条例廃止の動き


辻山 幸宣

 昨年12月16日、石垣市議会で議員提案の「石垣市自治基本条例を廃止する条例」案が採決され賛成10・反対11の僅差で否決となった。「石垣市自治基本条例(平成21年石垣市条例第23号)は、廃止する」の1条だけの条例であった。付則に「この条例は、令和2年4月1日から施行する」とある。提案理由を見てみると「当条例は、まちづくりを進めるために必要があるとのことから制定されたが、社会情勢の変化や、二元代表制の円滑な運用には必ずしも有用な条例ではないことから廃止する」とされているのみである。
 提案は自民系会派(自由民主石垣)の議員であり、議会運営では与党的立場と見られている2会派と合わせると過半数を超えており、反対派は少数とみられていた。「全国で初めての自治基本条例廃止か」と注目を浴びていた。だが、ふたを開けてみれば2名の議員が反対派に回ったことで廃止条例案が否決されたのであった。マスコミの情報、市議会質疑を見直してみても、この2議員の採決を引き起こした理由が定かではない。
 それにしても現存している自治基本条例を廃止しようとしたのは、どのような問題意識に基づくものであろうか。マスコミ上で取り沙汰された三つの可能性を検討してみたい。検討対象は(1)自民党政務調査会がまとめた「チョット待て!!“自治基本条例”~つくるべきかどうか、もう一度考えよう~」と題する文書である。この文書を沖縄県自民党を通じて石垣自民党に実現を迫ったのではないかというものだ。一部マスコミでは沖縄自民党幹部の否定的コメントを載せているが、真相は不明だ。
 さらに(2)「自治基本条例に反対する市民の会」(会長:村田春樹)の動きがある。市議会に廃止条例を提出する少し前の11月5日、石垣市内で村田春樹会長の講演会が開かれ多くの自民党市議が出席した。そこで村田氏は、同条例は「百害あって、一利なし」と述べ、廃止すべしとの考えを述べたとされる(八重山日報)。
 (3)三番目に「石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票」の問題がある。石垣市住民投票を求める市民の会が14,263筆(市有権者の約37%)の署名を集め石垣市長に提出したところ、市長は市議会に「住民投票条例」を付議したが否決されたとして住民投票の実施をしていない。しかし、石垣市自治基本条例第28条には「(前略)本市において選挙権を有するものは、市政に係る重要事項について、その総数の4分の1以上のものの連署をもって、(中略)住民投票の実施を請求することができる」(1項)とあり、「市長は、第一項の規定による請求があったときは、所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならない」(4項)のである。ここには議会が介入する余地はない。住民投票を求める会は、この条文を基に那覇地裁に市長の住民投票の義務づけ訴訟を提起しており、自民会派は「それならば、自治条例ごと廃止してしまおうと提案した」(iitaihoudai-sanghan.com/ishigaki-city-council-straddle)というのだ。
 いずれも政争の具にされた観があるが、自治基本条例が直面している諸問題があることを軽視することはできない。一つは、上で見た基本条例第28条第4項についてである。これは、第1項で住民投票条例の請求署名をおこなったところ、第4項の4分の1規定を超えたら投票実施の請求を行うという趣旨なのかどうかということである。市長は所定の手続き規定が存しないことを理由に実施をしていないというが、手続きを規則などで制定することの懈怠である。裁判の行方が注目される。また、5年を超えないごとの条例の見直し(第43条)でこの点に関する見落としがあったことも市及び議会の落ち度ではないか。3月議会に改正条例案を提出する動きがみられるが、審議会を設置、諮問(第43条)した上で議会討議だけでなく、十分な市民との討議を経てほしい。

 

(つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所非常勤研究員)