地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年1月のコラム

ふるさと納税とコロナ対策

 ふるさと納税の根本的な問題は、おおよそ自治体同士で個人住民税を奪い合うだけのしくみになっているところにある。加えて各自治体がその争奪戦に勝ち抜くため、損益計算で少しでも黒字が見込めるなら、できるだけ多額の返礼品を用意するのはごく経済合理的な行動といっていい。そこから自治体間の返礼品合戦の過熱という、見過ごしはできないけれども事柄の性格としては派生的な問題が生じる。
 総務省はふるさと納税の根本的な問題には手を着けず、したがって根本的な解決は棚上げにしたまま、派生的な問題の解消だけをねらって、自治体に過度な返礼品の提供を自粛すべしと要請する「技術的助言」を繰り返してきた。そしてその効き目に限界があると見ると、法令改正によって助言内容を自治体に強制するやり方に踏み切った。2019年3月公布、6月施行の改正地方税法第37条の2第2項および第314条の7第2項により、ふるさと納税を受けた自治体が返礼品を提供する場合、返礼品の価額をふるさと納税の3割以下とし、また、返礼品を自治体の地場産品に限るとしたのがそれである。
 さらに3割以下ルールに関して抜け道が生じないようにするため、地方税法改正直後に定めた総務省告示第179号第4条第1号につぎの規定を設けた。「返礼品等の調達に要する費用の額とは、個別の返礼品等の調達のために、地方団体が現に支出した額とし、支出の名目にかかわらず、当該地方団体が支出した額が当該返礼品等の数量又は内容に影響するものである場合には、当該支出した額を含むものとする」。
 条文の趣旨を例解するとこうである。自治体Xに居住する住民aが1万円のふるさと納税をし、それを受け取った自治体Yは業者bから小売価格1個3,000円の地場産品を仕入れ、返礼品に使った。それだけなら問題はない。だが、自治体Yから業者bに対して当該地場産品を出荷するまでに1個あたりα円の補助金給付がなされ、業者から実際には小売価格3,000+α円の産品が納品されている。その場合は3割以下ルール違反とみなす。違反を回避するには、補助金をもとにした+αまで込みで計算してルールを守る必要がある。
 ふるさと納税とコロナ対策が接触し、また一つ問題が生じる発火点はこの+αあたりのところにある。農林水産省は2020年6月、コロナ禍が拡がり、農漁業特産品の売り上げが落ち込むなかで、農協などの事業者に対し、生産者からの購入額の半額を補助する事業を開始した。コロナ対策として見れば、それ自体はとくに首を傾げるところのない補助事業である。感染拡大を招きうるGoTo補助事業よりはるかに真っ当とさえいっていい。
 しかし、それがふるさと納税とペアリングされた場合、さきの例解に即して仮りに農水省からの補助金を単品あたりβ円とするなら、小売価格3,000+β円の特産品がふるさと納税返礼品として流通し、しかも法令の3割以下ルールにはなんら抵触しない珍妙な事態が生まれる。ふるさと納税ポータルサイト大手のふるさとチョイスは、早速2020年7月からそうしたペアリング返礼品を「ニコニコエール品」と銘打ち、通常比2倍の増量といった宣伝文句でキャンペインを繰り広げ、上々の成果を挙げているという。
 こうした3割以下ルールの抜け道問題を最初に報じたのはおそらく共同通信で(最初の配信記事ではないが、https://www.47news.jp/47reporters/5252309.htmlを参照)、たぶんそれをもとに、フジテレビ、関西テレビ、朝日新聞などのメディアも後追い報道をしている。これまで共同通信をはじめ、取材の求めに応じて何度か意見を述べる機会があったが、その要点と結論は毎回変わらない。農水省の補助事業にコロナ対策として責められるべき点はない。だが、それがふるさと納税と合わせ技で使われると、もともと不当な住民税争奪戦を勝ち抜くための不当な返礼品合戦を強める結果を招く。朱に交われば赤くなり、悪貨は良貨を駆逐するの警句のとおりである。

 

こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授)