地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年9月のコラム

誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を


武藤 博己

 デジタル庁(2021年9月1日設置)のWebサイトのトップページ(8月30日閲覧)には、これらの言葉が大きな文字で掲げられていた。それに続いて、「デジタル庁は、デジタルの活用により、一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会を目指します。」と記されていた。署名は、デジタル改革担当大臣・平井卓也とあった。
 この文言は、最初に、「デジタル・ガバメント実行計画」(令和2(2020)年12月25日閣議決定)のなかで使われたものである。その「はじめに」には、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」と太字のイタリックで書かれている。また、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という言葉は、国連のSDGsでも使われている。
 もっとも気になるのは、デジタル化について「誰一人取り残さない」という表現である。デジタルデバイドの現実をわかって言っているのであろうか。総務省の調査(令和2年通信利用動向調査、令和3年6月18日公表)によれば、インターネットの利用動向について、スマートフォンがもっとも高いが、60代は64.4%であり、70代は35.6%、80歳以上は9.3%にすぎない。また、PCの利用については、60代が50%、70代31.6%、80歳以上が9.7%である。20代や30代でもスマートフォンの利用は90.5%であるが、PCの利用は60%台の半ばである。PCでインターネットにアクセスできなければ、行政手続きのデジタル化の恩恵を受けることは難しい。また、本人認証にマイナンバーカードも必要である。総務省の資料によれば、令和3年8月1日現在、交付枚数45,631,741枚、人口に対する交付枚数率36.0%にとどまっている。
 先の閣議決定にも、デジタルデバイドの是正という項目がある。そこには、「高齢者や障害者等を含む全ての国民がデジタル化の恩恵を受けられるように、オンライン申請等に関するアドバイザーによる支援、デジタル技術に関する特別の知識や複雑な操作を要しないシンプルな設計による情報システムの整備、ヘルプデスク等の利用者サポート機能の充実等デジタルデバイドの是正の取組を継続的に行う」と明記されている。しかしながら、特別給付金の関係で、「10万円給付金、40万人分が余る」という記事があった(朝日新聞、2021年4月30日)。記事には、申請がなかったと書かれているが、そもそも住所がない人々(たとえばホームレス)には、給付金の申請書が届いていない。自主的に申請しない人もいたとは思うが、多くは申請書が届いていなかったものと考えられる。この推測から考えても、「誰一人取り残さない」のは現実的には不可能である。
 次に、人に優しいデジタル化とはどういう意味なのであろうか。そもそもコンピュータが人に優しいかどうかは関係ないであろう。コンピュータのソフトや操作が人にわかりやすいかどうかであって、経験を積んでわかるようになっても、それは人に優しいとは言えない。初心者あるいは初めてアクセスする人にとってわかりやすいかどうかが人に優しいかどうかの判断基準である。前回のコラム(2021年3月号)で確定申告のわかりづらさをくどくどと書いたが、人に優しいとはとても言えない。これからデジタル庁で見直して、わかりやすくしていってくれるのだろうか。先の閣議決定には、<サービス設計12箇条>が記されている。すなわち、第1条 利用者のニーズから出発する、……第12条 情報システムではなくサービスを作る、である。これらの目標は評価できる部分もあり、個別に解説もついているが、果たして実現できるのであろうか。
 情緒的な表現を使って、耳触りのよいキャッチコピーで国民を欺くのは間違っている。誰一人取り残さないなどということは不可能である。待機児童をゼロにすることより、ずっと難しい。

 

(むとう ひろみ 公益財団法人地方自治総合研究所所長・法政大学名誉教授)