地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年11月のコラム

中途半端な支援策と新たな貧困

 2021年7月から支給が始まった国の「生活困窮者自立支援金」の利用が低調で、京都府と滋賀県では国が当初の期限とした8月末までの申請件数は対象の2割にとどまる(京都新聞、2021年9月15日)。要件の厳しさが背景にあるとの報道だ。
 「生活困窮者自立支援金」は、生活費を無償で借りられる「特例貸付制度」を限度額までの200万円借りたが、それでも生活が成り立たない人に対して支援する制度だ。3か月間で単身世帯で18万円、2人世帯で24万円、3人以上で30万円が支給される。
 京都府によると、8月末の申請件数は3,719世帯で、対象となる1万3千世帯の約2割にとどまる。ひとつの原因として挙げられるのは要件の厳しさだ。要件は3つある。①月収は単身者で12万4千円以下(京都市の場合)、2人世帯で17万8千円以下など、②預貯金が単身で50万4千円以下、2人世帯で78万円以下など、③月に2回以上ハローワークで相談する、など就職活動要件。特にこのうち③の要件が厳しい。「コロナ禍が収まったら仕事を再開したいが、転職しないといけないのか」などの声があがる。
 京都市は8月12日、求職活動要件の緩和を求める要望書を厚生労働省に提出した。全国的にも申請が伸び悩む中で、厚生労働省は求職活動要件については、自治体に柔軟に対応することを認めた。市では、ハローワークへの訪問は可能な範囲でいいとしている。
 この間に多くの人が雇い止めに遭い、一部はホームレスの状態に陥っている。中小企業者も、倒産や事業縮小で稼ぐ場所を失っている。そして一緒にやってきた仲間が離職している。特に、一人親である女性や障がい者、学生にしわが寄せられている。
 朝日新聞の2021年9月14日から16日にかけて、「2人孤独死」の小特集が組まれた。2018年12月に枚方市で発見された80歳代の夫婦は、凍死だった。これに先立つ2011年1月に、豊中市のマンションの1室で63歳と61歳の姉妹の遺体が見つかった。所有する不動産を差し押さえられ、困窮の末、餓死や病死したと見られた。
 一帯は福祉ボランティアの活動が充実している地域として知られていた。それでも二人の窮状に誰も気づくことができなかったのはなぜか。『高齢』や『独居』という従来のキーワードにとらわれない活動が必要ではないか。地元の社会福祉協議会が対策に乗り出した。
 「中心になったのが、社協で地域福祉推進室長をつとめる勝部麗子さんだった。1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、25年以上『孤独死』の問題に向き合ってきた。NHKドラマ『サイレント・プア』(14年)のモデルにもなった。」(朝日新聞2021年9月16日)。
 豊中市社会福祉協議会は、現在、勝部さんのようなコミュニティ・ソーシャルワーカーを8名そろえている。民生・児童委員やボランティアと一緒に、小学校区を単位とし、中学校区程度を基礎とした地区協議会の網の目でカバーしているが、それから漏れる人々のニーズに応えるために、「見守りローラー作戦」を始めていた。
 「目下の課題は、コロナ禍だ。飲食店主やタクシー運転手、観光業者ら、多くの人が収入を絶たれた。これまで福祉に無縁だった人がほとんどで、追い込まれても、自らSOSを出さない、出せない傾向がある。」「困りごとを気軽に言い出せる社会にしなければいけないのに、その状況は本人のせい、という『自己責任論』が世の中に満ちている。」(勝部)と言う(同)。
 この状況を克服していくために必要なのは、やはり人の確保とネットワークの力の構築だろう。そのためには豊中市のように、コミュニティ・ソーシャルワーカーを小学校区ごとに配置するための補助金等として安定した財源が確保されなければならない。当面は地方交付税措置でもよい。
 113人いた引きこもりの人を、7年ほどで10人までに引き下げている、秋田県藤里町社会福祉協議会(菊池まゆみ会長)の職員は、51人。引きこもり拠点施設「こみっと」、自立訓練事業所「くまげら館」、特別養護老人ホーム、自立支援・就労支援事業所、介護保険事業所など多岐にわたる事業所を運営する。社会福祉士11人、精神保健福祉士7人、正・准看護師4人、介護支援専門員15人、介護福祉士22人、保育士2人、という。これは、様々な制度の補助金などを組み合わせて、独自の財源確保をしてきている良い事例だ。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)