地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2022年9月のコラム

定員管理の考え方


武藤博己

 『地方公務員月報』(2022年5月号)に目を通していたら、「定員管理の参考指標も、職務に必要な人数を厳密に試算したものではなく、現在の在職者数相場に近い」(西村美香「「定年引上げに伴う地方公共団体の定員管理のあり方に関する研究会」の検討を受けて」pp.15-16)と書かれた部分が目にとまった。定員管理とは、もっと合理的な意味を持っていると思っていたので、「在職者数相場」だったのかと自分の不勉強を反省した。そこで、定員管理について調べてみた。
 定員管理とは、自治体の行政サービスを適切に提供するために、仕事の量に応じて必要な人員を配置することであると考えている。まず定員管理の歴史を概略的にみると、昭和20年代(1945~54年)は人員整理が中心であった。昭和30年代は行政規模の拡大に伴い、定員の大幅な増加があった。昭和40年代は、国は1969(昭和44)年に総定員法を制定して、定員削減と行政需要の増加に伴う増員をはかるという総定員管理の方法をとりはじめた。他方、自治体では行政需要の増大に伴い、定員も増加していった。
 昭和50年代(1975~84年)から本格的な定員管理の時代が始まる。1979(昭和54)年には、「類似団体別職員数」を自治省が策定し、また1981年の第二臨調の行政改革提言やそれを受けた閣議決定があり、1983年には自治省が「第1次定員モデル」を創設した。その後、2008(平成20)年からは「定員回帰指標」も作られ、定員モデルも2019(平成31)年の第10次まで策定されている。
 定員管理の参考指標について、「行政需要は多様であるため、各団体の職員数を画一的に定めることは困難」としながらも、人口や地勢条件、地域の経済状況、団体の財政状況等の社会経済条件などを考慮して、類似する地方公共団体間の職員数の状況を客観的に比較することが可能な統計的指標であると説明されているが、「あるべき水準」を示すものではない、とも記されている(地方公共団体定員管理研究会報告書、2019年)。部門別に計算式が作られており、それなりに多様な要素を考慮して定員モデルが作られているように感じる。
 こうした定員モデルを参考にして、自治体は定員を減らしてきた。1994(平成6)年の328.2万人をピークとして、20年間下がり続け、令和(2019年~)に入って、増加傾向がみられる。「20年間連続・55万人の定員削減」を可能ならしめた要因として、アウトソーシングがあげられている(地方公共団体の定員管理のあり方に関する研究会第1回配布資料、2019年)が、定員が削減されただけで、民間委託にしろ、指定管理にしろ、地方独法にしろ、自治体の仕事をする労働者が減っているわけではなく、自治体の仕事のやり方が変わっただけである。また、重要なこととして、定員の減少分を補ったのが臨時・非常勤職員であり、2016(平成28)年現在で65万人にも達している。
 なぜ仕事の量が拡大しているのに、定員を引き下げられるのであろうか。その原因は、定員モデルの作り方にあると思われる。自治省の解説書には、「回帰方程式より下に位置する団体は平均的団体より職員数のすくないところ、すなわち定員管理のしっかりしている団体といえよう。従って、各団体はこの定員管理のしっかりしている団体の標準的なところを目標にして定員の縮減を図る必要があると考えても不当ではなかろう。」(自治省行政局公務員部監修『定員管理の理論と実践』、1987年、p.137)という説明があり、定員モデルを作成する際には、定員の少ない団体を参考にモデルを作成するため、年々減少する仕組みになったのであろう。自治体間の定員削減競争を活用したモデルづくりだったと言える。したがって、「在職者数相場」の前に、定員の少ない「『回帰方程式より下に位置する団体』の」を加え、その「在職者数相場」とするのが適切なように思われる。

 

(むとう ひろみ 公益財団法人地方自治総合研究所所長・法政大学名誉教授)