新聞各紙でも比較的詳細に報道されたから、ご存知の方も多いであろう。宮古島市水道事業供給条例をめぐる訴訟である。最高裁第三小法廷は、2022年7月19日、原審の福岡高那覇支判令和3年1月19日を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。高裁判決は那覇地判令和2年8月7日を実質的に追認したにすぎなかったから、結局は、地裁判決の解釈が誤りとされたといえる。
水道法14条1項は、「水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。」と規定する。宮古島市においては、供給規程として、前記条例が制定されている。同市内でホテルを経営する原告2社は、同市との間で給水契約を締結し、ホテルにおいて水道を使用していた。
そうしたところ、2018年4月27日以降、水道施設内の装置の経年劣化による破損を原因とする断水が発生したため、ホテル側はキャンセル対応などの費用支出を余儀なくされた。そこで、給水契約の債務不履行にもとづく損害賠償を請求したのである。
条例には、「給水は、非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情及び法令又はこの条例の規定による場合のほか、制限又は停止することはない。」(16条1項)、「第1項の規定による、給水の制限又は停止のために損害を生ずることがあっても、市はその責めを負わない。」(16条3項)と規定されていた。地裁・高裁は、この条文に注目し、本件断水は3項の免責条項に該当するとして、請求を棄却した。
最高裁の破棄理由は、大要次の通りである。①水道法15条2項は水道事業者に常時給水義務を課す一方で、「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」には給水停止できると規定するが、これは利用者保護の要請にもとづく強行規定である、②条例16条1項には、同法15条2項を確認する同一内容の規定として給水義務を負わない場合が定められているはずである、③それ以外の場合には給水義務を負うから、その不履行にもとづく損害賠償責任は免除されない、④以上と異なる判断をした高裁判決には法令違反があるため、本件断水が「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に該当するかの判断をさせるべく、高裁に差し戻す。
最高裁判決文を一読したとき、「強行規定」という言葉が目を引いた。強行規定に反する条例は違法・無効というロジックは、神奈川県臨時特例企業税事件判決においても用いられている(最一小判平成25年3月21日判時2193号3頁)。
自治体に条例制定権を保障する憲法94条は、「法律の範囲内において」と規定する。その内容には、多くの基準が含まれる。そのひとつが、法律の制度趣旨に照らして全国統一的適用が求められる内容の場合にはそれを修正する条例は法律に抵触して違法という基準であることが明らかになった点は、条例論にとって重要である。どの部分がそれに該当するのかは解釈により決せられるが、憲法92条に規定される「地方自治の本旨」と整合的に解釈する必要がある。
さて、宮古島市条例事件判決における「強行規定」の意義である。本件では、水道法15条2項の「災害その他正当な理由」が問題となる。宮古島市条例には、災害のほかに水道施設の損傷が具体化されていた。おそらく最高裁は、正当な理由となるのは災害と同等レベルのものに限定されると考えたのだろう。利用者保護の要請を重視すれば、結果として保護内容を緩和する措置は認められない。
軽過失による施設損傷に起因する断水について損害賠償を認めていては、水道事業者の負担がきわめて多額となる。それは水道料金の値上げにつながり低廉価格による水道供給を旨とする水道法の要請に反するため、当該事由は「正当な理由」に含まれる。これが下級審判決のロジックであるが、最高裁は、こうした解釈を排斥した。
「水道施設の損傷」を免責事由とするのは、地域特性といえるだろうか。国家賠償法のもとでの違法性評価は自治体の行財政能力により異なりうるかという点にもつながる論点である。最高裁は「否」と考えているように思われる。
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