地方自治総合研究所

MENU
月刊『自治総研』

2002年8月自治動向Ⅲ


宝塚市パチンコ店建築工事続行禁止仮処分事件判決と条例の実効性
嶋田暁文
 宝塚市が、パチンコ店規制条例の見直しを進めるための「まちづくり条例研究会」を発足させた。市が条例に基づきパチンコ店の建築続行禁止を求めた訴訟に関する最高裁判決(7月9日)で「国や自治体が行政上の義務の履行を求める訴訟は、訴訟の対象にならない」として、市側の訴えが却下されたことを受けたものだ。
 当該訴訟の論点は二つあった。一つは、「当該条例が法律に抵触しないかどうか」であり、もう一つは「行政上の義務履行について民事執行が可能かどうか」である。第1審神戸地裁および第2審大阪高裁はともに、前者の論点につき、当該条例が風営法に違反するとして無効とする判断を示していた。後者の論点については学説上も判例上も可能とする見解がほぼ通説と言って良い状況であった。ところが、今回の最高裁判決では、条例と法律の関係については言及されず、もっぱら後者の論点についての否定的判断によって片付けられてしまった。これは地方自治関係者にとっては驚きであった。
 今回の判決を受けてパチンコ業者側の圧力が大きくなることは必死である。宝塚市の「まちづくり研究会」では、罰則の条例への導入を含めて検討するというが、仮に罰則を設けたとしても違反行為によって得られる利潤と比較すると十分な抑制的機能を発揮しにくいと思われる。条例で除却命令を規定することで代執行を試みることも考えられるが、パチンコ店を営業しないで他に転用することを妨げることまで求めることはできないから、比例原則の観点からやはり除却命令の規定はいきすぎで認められないだろう。要するに、現行法制度のもとでは、自治体は、今回の判決のマイナス・インパクトを吸収することができない。
 今回の判決のインパクトは、パチンコ出店規制という問題にとどまらない。およそ行政上の義務履行確保の制度が存在しない場合、当該条例の実効性が確保されなくなるからである。(仮に条例に罰則が設けられている場合でも、すでに述べたようにその実効性には限界がある。)分権時代にふさわしい立法対応が早急に望まれる。
文責 : 嶋田暁文