地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2003年6月自治動向


地域における自治体労働者の立場と公務員制度
三野靖
 2002 年の「地方公務員給与実態調査結果」が総務省より公表された。それによると全自治体の給与水準は、ラスパイレス指数 100.6 で前年比 0.1 ポイント増であるが、 100 未満の自治体が 76.7 %と全体として低い階層に移行しており、総体として適正化が進んでいるとみているようである。都道府県では最も高い東京都の 104.4 と最も低い鳥取県の 97.6 の格差は 6.8 ポイントである。
 ラスパイレス指数とは、地方公務員と国家公務員の給与水準を、国家公務員の構成を基準として、職種毎に学歴別、経験年数別に平均給料月額を比較し、国家公務員の給与を 100 とした場合の地方公務員の給与水準を示したものである。全自治体職員の平均給料月額は 368,297 円、一人当たりの平均退職手当額は 16,432 千円となっている。そのうち、例えば都道府県一般行政職では、平均給料月額は 364,469 円、退職手当のうち 58 歳勧奨退職手当額は 32,160 千円となっている。
 自治体職員の給与は、社会情勢一般に適応するため、人事委員会が地域の民間賃金の状況を調べたうえでその格差に基づき勧告し、最終的に議会で決定される。 2002 年の各都道府県人事委員会の勧告率は、マイナス2%前後で、ほぼ横並びである。
 一方、厚生労働省の 2002 年の賃金構造基本統計調査をもとに財務省が試算した都道府県別の民間給与の格差をみると東京都の 117 から沖縄県の 74 まで 43 ポイントの開きがあった。
 民間労働者の雇用状況が厳しいなか、このような状況について、人事委員会勧告の元になる公民格差の算定方法などを巡って労使双方、または民間からもさまざまな意見がでている。
 例えば、自治体職員の期末・勤勉手当は、上がるときも下がるときも、民間企業のボーナス支給状況を1年半遅れで反映するシステムとなっており、このようなタイムラグの発生は、社会経済の変化が激しい状況では、民間労働者の賃金状況を十分に反映していないのではないかとの指摘もある。
 これらの議論については、当然のことながら労働基本権制限の代償措置としての人勧機能の評価、地方公務員法上の均衡原則、情勢適応原則も考慮したうえで議論されなければならない。
 しかし、地方分権の今日、自治体労働者の地域において期待され、果たすべき役割を客観的に考えてみると、別の視点からの議論ができるのではないだろうか。
 ひとつは、自治体の行政組織が公務員身分としての等質性を失い、複雑な複合体になっている (『日本の自治・分権』松下圭一) 状況をどう見るかである。
 多数の臨時・嘱託職員の存在、再雇用職員、民間からの派遣職員、第三セクターの職員、企業からの採用、永住外国人採用、 NPO や市民との協働関係、そして今後予定される地方独立行政法人など、自治体職場で労働に従事する人の多様化はますます進んでいく。このような多様化した組織や雇用形態が現実として広がっているなかで、給与をはじめとする労働条件の多様化(不均一化)は既に現実の課題になっている。
 ひとつは、地域における自治体労働者の存在意義は果たして全国一律であるのかとの疑問である。
 小規模自治体のなかには、役所が地域の最大産業であるようなところもあるが、そのような地域においては、役所の果たす役割は都会の地域に比べて相対的に大きいものがあろう。都会では、民間が担っているようなサービスを役所が提供するのもやむを得ない話であろう。
 そのような地域の自治体労働者の給与水準をどう位置づけるかについては、本来役所が果たすべき以上の役割を果たしているのだから、地域の民間労働者より高い水準の給与をもらってもおかしくない、いや、民間とバランスのとれた給与でなければ地域のなかで理解を得られない、など見方によって変わってくる。一方、都会の自治体労働者については、また違った議論が出てくる可能性があろう。
 これに対しては、基本的に同じような仕事をする自治体職員の給与には全国横断的な水準があるべきであり、それこそが人勧制度であり、地方公務員法上の均衡原則であるとの反論も当然ある。
 もうひとつ別の視点として、自治体の組織や職員のあり方の面からの議論もできるのではないか。
 それは、自治体職員の雇用形態の変化と雇用の流動化に伴う職員の任用制度の見直しである。
 現在のように地方公務員法でガチッと決められた公務員制度では、価値観や生き方の多様化した市民社会には、もはや対応しきれない状況が自治体職場で顕在化している。年齢と経験だけのポジション、市民と向かい合えない職員、社会情勢の変化を感じ取れない職員、こんな 公務員 に対する視線は役所の外だけでなく、内でも厳しい視線にさらされているのが現実ではないか。
 経験(年数)がモノをいった従来型の年功序列型の人事・給与体系、終身雇用と共済年金制度、法による身分保障、民間では考えられない福利厚生など、自治体企業的な仕組みは、市民社会から隔離された部分社会の組織における人的資源の限界と無関係ではない構造がありはしないか。
 これからの自治体行政は、画一的な採用試験による同質的な価値観をもった職員だけでなく、市民職員、企業職員など、市民や社会の声を鋭敏に感受できる感性と地域の課題を的確に判断できる能力、そして説明責任を果たしえる実行力のある多様な人たちが担う時代が来るのではないだろうか。
 そうなれば、ひとつの課題として労働条件等の格差による地域の民間労働者や市民との壁をどうするのか(乗り越えるのか、乗り越えないのか)という議論は当然出てこよう。
 自治体労働者は、地域のなかで特権階級であってはならないのは当然であるが、市民との労働条件等の格差を抱えたまま、市民の視点からの行政運営が行えるのかとの問いに、改めて自らの役割を見つめ直し、地域や自治体の実情に応じた自治体組織の仕組みや職員の任用制度のあり方を考えるときが来ているのではないだろうか。
文責 : 三野靖