地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2014年11月中央の動き


中央の動き


◎地方提案の受け入れなお2割 ― 地方分権会議
 政府の地方分権改革有識者会議は10月29日、提案募集の「中間取りまとめ」を了承した。地方提案935件のうち129件を受け入れるが、現行規定で対応可能(89件)も含め、その実現率は23%にとどまる。同会議では引き続き調整を進め11月末に「対応方針案」を決める。ほぼゼロ回答の1次回答より進展、重点事項の実現率は43%になるが、今後の進展はなお不透明だ。
 地方提案を受け入れるのは、市立特別支援学校設置の都道府県認可廃止や、麻薬小売業者間譲渡許可、地域限定通訳案内士事務、割賦販売法の包括信用購入あっせん業者の立入検査等、水道事業(給水人口5万人超)の認可・指導監督権限などの権限移譲。また、自治体の複数落札入札制度調達や、住民票取次所での戸籍謄抄本の交付を可能にするほか、農家レストランの農用地区域内設置も容認する。一方、保育所等の基準等の裁量拡大には、厚労省が「国の最低基準が必要」と難色を示し、農地転用許可の移譲も農水省が「国による管理」の必要性を強調している。


◎農地転用で地方側が陳情攻勢 ― 地方六団体
 政府の地方分権改革有識者会議の農地・農村部会では、年内の「見直し方針」決定に向け最終調整に入るが、農地転用許可の市町村への移譲を求める地方六団体側と、慎重な農水省との接点は見えてこない。そんな中、地方側は地方六団体PTが7月にまとめた「提言」実現に向け、連日、異例ともいえる政府や政党等への「要請攻勢」を展開している。
 8月5日に知事・市長・町長が林芳正農水相、山口那津男公明党代表に提言を手交し要請したのを皮切りに、同19日には新藤義孝総務相ら、同25日には自民党の高市早苗政務調査会長ら、9月も10日に自民党の二階俊博総務会長ら、22日に石破茂地方創生担当相ら、さらに10月に入っても6日、8日、15日、23日、24日と連日、政党や西川公也農水相らに要請した。地方側には、長年要請し続けている農地転用問題が改めて同会議で議題にのぼり、六団体で初めて提言をまとめるなど、「要請攻勢」の背景には、今回が長年の課題解決のチャンスとの「危機感」もあるようだ。
◎地方創生や予算案で意見交換 ― 国と地方の協議の場
 政府と地方六団体の「国と地方の協議の場」が10月21日、首相官邸で開かれ、地方創生や来年度予算案、地方分権改革をめぐり協議が行われた。
 地方側は、地方創生で①少子化対策の抜本的な強化②東京圏への一極集中是正と地方の活力を取り戻す仕組みづくり③地域の生活を維持するための拠点・ネットワークの整備 ― などを要請。併せて、包括的な「まち・ひと・しごと創生推進交付金」(仮称)の創設を求めた。また、来年度予算では地域経済・雇用対策の特別枠を引き続き計上するとともに、増大する社会保障費に対応するため消費税の10%引き上げを要請した。地方分権改革では、農地転用許可権限の市町村への移譲や提案募集の実現などを求めた。これを受けて、安倍晋三首相は、地方創生に向け「地方の個性を尊重し支援するなど、これまでとは異次元の施策に取り組んでいく考えだ」と述べた。
◎地域イノベーション懇談会など設置 ― 総務省
 高市早苗総務相は10月21日の閣議後記者会見で、「地域イノベーション有識者懇談会」の設置と、「地域経済グローバル循環創造」の協力枠構築で経産省と合意したことを明らかにした。
 地域イノベーション有識者懇談会は、三菱総合研究所の小宮山宏理事長を座長に10人の有識者で構成。今後月2回程度開催し、地域特性を生かしたビジネスモデル構築やサービス業を含めた生産性の向上などについて意見交換する。「ローカルアベノミクス成功のための攻めの戦略構築の知恵袋」(高市総務相)とする。また、経産省との新たな協力枠構築は、昨年立ち上げた全自治体の共同データベース「地域の元気創造プラットフォーム」とジェトロ・中小企業基盤整備機構とを接続し、外国企業の地方への誘致や外国に向けた地域産品の輸出・販路開拓の取り組みを強化する。
◎地方創生で提言等が相次ぐ ― 知事会、市長会等
 政府が年内にも決定する地方創生の「長期ビジョン」と「総合戦略」に向け、地方側から意見・提言などが相次いでいる。
 全国知事会は10月16日に「地方創生のための提言」を決めた。①結婚・子育てを後押しする経済的支援制度創設②第一次産業への就労支援「新規就労者110番」設置③ワンストップ型「移住・二地域居住促進センター」設置 ― などのため、一般会計に5年間で5兆円程度の「まち・ひと・しごと創生枠」と、毎年数千億円程度の「創生推進交付金」の創設を提言した。また、全国市長会は10月28日、緊急アピールを発表。①子どもの医療費無料化等は国の責任で実施②自由度の高い包括交付金を確保 ― などを求めた。また、指定都市市長会は10月20日の総会で、「創生推進交付金」の柔軟な制度設計や地方の声を反映した地方創生の推進などを決議。全国都道府県議会議長会も10月28日の総会で、地方の意見を反映するとともに支障となる制度等の見直し、地方税財源の充実確保などを決議した。このほか、全国町村会も11月中に提言をまとめる。
◎人口減・ガバナンスで審議項目案 ― 地制調
 第31次地方制度調査会の専門小委員会は10月15日、①人口減少社会関係②ガバナンス関係 ― の審議項目案を大筋で了承した。11月下旬に開催する総会で正式決定、改めて同小委で答申に向けた審議に入る。
 今年5月に発足した第31次地制調は、安倍晋三首相からの諮問「人口減少社会に対応する地方行政体制のあり方」「自治体のガバナンスのあり方」を受け、専門小委員会で具体的な審議項目を議論してきた。今回大筋了承した審議項目では、人口減少関係に①人口減少の食い止め策と課題対応策②地方中枢拠点都市圏など市町村間の広域連携③三大都市圏から地方圏への人口移動 ― など、ガバナンス関係では①議会は意思決定・監視機能をどう担うべきか②議会・監査委員・長・住民の役割を踏まえ自治体のガバナンス全体の機能発揮のための仕組み ― などを挙げた。なお、これまでの同小委で浮上した「第二弾の平成の大合併」や「道州制」「選挙制度改革」などは明記されなかった。
◎地方創生の「総合戦略」等で論点議論 ― 政府
 政府は10月10日、第2回まち・ひと・しごと創生本部を開き、「長期ビジョン」と「総合戦略」の論点について議論した。席上、安倍晋三首相は、各地域の活性化推進に向け「ビッグデータを活用した地域特性の分析を踏まえ、地域主導の提案をワンストップで支援する」と述べた。「総合戦略」の論点では、①地方への新しいひとの流れをつくる②地方にしごとをつくり働けるようにする③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる ― などを挙げている。
 同本部は、これに先立ち、基本政策検討チームが10月2~10日にかけて22人の首長や関係府省からヒアリングを実施した。これまでの取り組みの成功・失敗事例を検証し「総合戦略」に反映させるためで、「地域の少子化」「地方移住・企業の地方移転」「地域連携」などをテーマに尾崎正直高知県知事らが報告した。また、同本部は10月20日、地方創生に関する都道府県担当課長会議を開催、「まち・ひと・しごと創生法案」や「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」策定に向けた人口動向分析・将来人口推計などについて説明した。
◎戦略特区に「地域限定保育士」など ― 政府
 政府の国家戦略特別区域諮問会議は10月10日、規制改革事項の追加を決めた。特区改正法案を今臨時国会にも提出する。同会議で、安倍晋三首相は「次の国会も、その次も絶え間なく提案し岩盤規制改革を断行する」と述べた。
 保育士不足解消のため、都道府県が保育士試験を年2回実施し、当該都道府県内のみ通用(3年程度)する「地域限定保育士」を設けるほか、公立学校の運営を民間に開放(民間委託方式による学校の公設民営)。また、起業の人材確保のため大企業や国・自治体職員が働けるよう「人材流動化センター」設置や制度改革を行う。このほか、地方創生推進の一環としてNPO法人の設立手続きの迅速化や国有林野の民間貸付け・使用対象者を拡大。さらに、地方の特産品販路拡大のためインターネットによる酒類販売の要件を緩和する。
◎給与改定で「総合的見直し」など通知 ― 総務省
 総務省は10月7日、政府が国家公務員の給与改定を決定したことを受けて、地方公務員についても国と同様に対応するよう都道府県知事等あてに通知した。
 国は、人事院勧告どおり月例給を平均0.27%、期末・勤勉手当を0.15月分それぞれ引き上げるが、通知は、地方公務員も同様の対応と、併せて国や民間を上回る給与等の適正化などを要請。給与制度の総合的見直しでも、俸給表の平均2%引下げと地域手当の見直しを求めた。なお、総務省が試算した今回の総合的見直しに伴う財政面での影響(3年間)では、俸給表引下げで3,700億円削減する一方、地域手当で1,500億円程度増加、差し引き2,100億円程度の削減になるとしている。一方、地方三団体は同総合的見直しについて、10月21日開催された国と地方の協議の場で、「官民を通じて地域間格差が拡大する」「国が示す地域手当基準は地域実情にそぐわない」との懸念を示した。
◎高出生率都市の政策などで議論 ― 市長会研究会
 全国市長会の少子化対策・子育て支援研究会は10月1日、第2回会合を開き、諸外国の合計特殊出生率や少子化の国際比較、我が国の都市での少子化対策等の取り組みについて意見交換した。
 市長会がまとめた出生率の国際比較では、スウェーデンや英国、フランス、アメリカで上昇、ドイツとイタリア、日本は低いままだった。また、日本の都市では宮古島市の2.27をトップに対馬市、石垣市、壱岐市、豊見城市で2を超えているほか、上位30位では舞鶴市、三次市を除きいずれも沖縄、九州の都市で占められた。これらの都市では、出生率が高い理由について「子育てを支援する祖父母等が近くに住んでいる」「一人っ子では子どもがかわいそうとの風潮がある」「でき婚出産の比率が高く、未婚出産に寛容」などを挙げた。

 

(井田 正夫・月刊「自治総研」編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)