地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2015年11月中央の動き


中央の動き


◎TPP大筋合意で対応基本方針 ― 政府対策本部
 政府のTPP総合対策本部は10月9日、環太平洋経済連携協定の大筋合意を受けて「総合的な政策対応に関する基本方針」を決めた。年内にも「総合的なTPP関連政策大綱」をまとめる。また、自民党は10月30日にTPP総合対策実行本部の初会合を開いた。政府・与党内では、2015年度補正予算案編成の動きも始まり、TPP問題は今後、国内対策に比重が移る。
 政府が決めた「基本方針」は、TPPを経済再生・地方創生に直結するものとするため、総合的な政策対応が必要だと強調。その基本目標に、①TPPの活用促進による新たな市場開拓等②TPPを契機としたイノベーションの促進・産業活性化③TPPの影響に関する国民の不安の払拭 ― を挙げた。また、政府は10月20日に、TPP大筋合意に盛り込まれた貿易自由化の全体像を発表した。農林水産物関係では合計834品目のうち395品目の関税を撤廃、うち重要5項目(586品目)でも174品目の関税がなくなる。さらに、政府は10月15日から札幌市などを皮切りに地方説明会を開催した。これに対し、全国知事会は10月26日、協定が地方経済や国民生活全般に与える影響等の分析結果の迅速な公表と説明を政府に申し入れた。


◎交付税改革議論を本格化 ― 経済財政諮問会議
 政府の経済財政諮問会議は10月16日、「骨太方針」に盛り込まれた80項目の具体化を審議した。同会議の一体改革推進委員会が10月13日にまとめた「中間整理」を受けて、民間議員が「見える化」のため府省間・自治体間等の行政サービス・コストを比較できるデータを整備すべきだと強調。「地方交付税におけるトップランナー方式を、産業経済関連予算等の裁量的経費・総務費分野で全面的導入を目指す」よう提案した。これに対し、高市早苗総務相は「産業振興や地域活性化など熱心に取り組まない団体がトップランナーとなるのが適当か」と牽制。また、地方六団体は10月14日の国と地方の協議の場で「地方の財政力や行政コストの差は人口や地理的条件等によることが大きく、一律の行政コスト比較はなじまない」と批判している。諮問会議では、引き続き一体改革推進委で工程表・KPIの議論を詰め、12月に「改革工程表」を策定する。
 また、財務省の財政制度等審議会は10月30日、社会保障や地方財政について審議。プライマリーバランス改善には地方財政計画の適正化・合理化が不可欠だとして、歳出特別枠・別枠加算の廃止・縮小のほか、「まち・ひと・しごと創生事業費」も計上の合理性を検証すべきだとした。年末の建議に盛り込む。
◎2地域居住などで世論調査発表 ― 内閣府
 内閣府は10月17日、国土形成計画に関する世論調査結果を発表した。それによると、居住地の人口減少・高齢化について85%が「実感している」と回答。居住地の将来については「不安を感じない」「不安」が50%、49%と拮抗した。不安の理由では「空き家の増加等」42%、「まちの寂れ」39%などが多い。また、老後に向けた移住意向では、「現在の地域に住み続けたい」が79%と多いが、「別の地域へ移住したい」も19%あった。移住先では「地方都市部」が55%と多いが、「農山漁村地域」も20%ある。さらに、「2地域居住」も69%は「関心がない」が、「関心がある」も30%あった。2地域居住への関心事項では「日常と離れ静かに暮らす」「豊かな自然」が各60%と多く、その実現のために必要なことでは「経済的な余裕」85%、「時間的な余裕」64%が多かった。
 また、厚生労働省が10月27日発表した人口減少社会の意識調査でも、地方へ「移住するつもりはない」が49%と多いが、「移住しても良い」が13%あった。移住の条件では、「買い物・医療等の生活基盤確保」「仕事が確保できる」が各50%と多かった。
◎ふるさと納税で現況調査を発表 ― 総務省
 総務省は10月23日、ふるさと納税の現況調査を発表した。今年度の制度改正でふるさと納税枠の倍増・ワンストップ特例が行われたが、今年度上半期(4~9月)のふるさと納税額は454億円、約228万件で、前年同期より約4倍も増えた。受入額は、都城市の13.3億円をトップに、天童市12.2億円、飯山市9.6億円、平戸市9.4億円、米沢市8.6億円などが続く。増加理由では、「返礼品の充実」(732団体)、「クレジット納付等」(287団体)などの回答が多かった。一方、「返礼品」送付を84%で実施。返礼品は「地元の特産品(飲食料)」(63%)、「施設利用券・宿泊券等」17%などが多い。なお、過度な返礼品自粛を求めた総務大臣通知を受けて512団体が「見直しを実施」したが、「見直しの必要はないと判断」も483団体あった。
 なお、自民党の宮沢洋一税制調査会長は10月20日、企業版ふるさと納税について「年末の制度改正で議論される。しっかり議論したい」と述べた。一方、全国知事会は10月7日まとめた2016年度税財政の提案(案)では「モラルハザードにならない制度設計に留意して検討」するよう求めている。
◎地方行政体制・ガバナンスで論点整理 ― 地制調
 政府の地方制度調査会は10月23日、人口減少社会の地方行政体制・自治体のガバナンスのあり方の「論点整理」を審議した。11月9日の「素案」審議を経た上で、総会に「答申案」を諮る。
 行政体制では、40年後に6割で人口が半減する中でも持続可能な行政サービスが提供できるよう広域連携と外部資源の活用を提案。具体的には、連携中枢都市圏を推進、連携が困難な地域では都道府県の補完を提案した。補完は、市町村の申出とし、窓口事務などを除く分野で都道府県職員が事務室共有化や訪問などで補完する。また、市町村が共同して地方独立行政法人を設立し、公権力を含む窓口業務などを市町村に代わって処理させるとした。ガバナンスでは、都道府県・政令市で内部統制体制の「標準的なモデル」を確立するとともに監査委員の独立性・専門性を高める研修制度を設ける。議選監査委員は「置かないこと」も選択肢とする。さらに、住民訴訟制度では、長や職員への萎縮効果を低減させるため軽過失の損害賠償責任の追求のあり方見直しも提案。併せて、損害賠償請求の放棄は監査委員の意見を聴取すべきだとした。
◎参院選の「合区」問題などで憲法研究会 ― 知事会
 全国知事会は10月27日、「憲法と地方自治研究会」の初会合を開いた。現行憲法における「地方自治」規定の課題や、来年の参議院選挙で導入される「合区」問題などを検討。来年春にも報告書をまとめる。「合区」は「一票の較差」是正のため来年の参院選で「鳥取・島根」「徳島・高知」の2か所で導入されるが、公職選挙法改正の付則で抜本的見直しが明記されたほか、全国知事会議でも「参議院は衆議院と違った代表原理がある」「合区は新たな不公正が生じる」などの意見が出ていた。このほか、現行憲法の課題として①「地方自治の本旨」の内容が不明確②「地方分権」の位置付けもない ― など地方自治の侵害を防ぐための基準として不十分などの課題を提起している。
 また、知事会は10月30日、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて全自治体と参加国等の事前キャンプ誘致をマッチングするためのデータベース構築が完成、稼働を始めたと発表した。
◎地方創生先行型交付金の対象事業決定 ― 内閣府
 内閣府は10月27日、地方創生交付金・先駆的事業分の交付対象事業を決めた。対象事業は合計710事業(うち市町村557事業)、交付予定額は236億円(同129億円)。分野別では、観光189事業(同150事業)、人材育成・移住156事業(同120事業)、農林水産153事業(同118事業)などで多い。主な事業は、洞爺湖有珠山ジオパークDMO観光地域づくり(北海道洞爺湖町・豊浦町・壮瞥町)、自伐型林業の雇用づくり(高知県佐川町)、CCRC事業(岩手県雫石町、輪島市、高知県等)、小さな拠点(神奈川県山北町、鳥取県、長崎県等)など。11月中に地方版総合戦略を策定した自治体への交付も決定する。また、10月30日に地方創生有識者会議を開き、11月にも地方創生第二ステージに向けて「地域しごと創生会議」を発足させるとともに、地方創生総合戦略を改定することを決めた。
 このほか、10月2日、地方創生・東京一極集中是正の一環として制度化した本社機能を地方に移転した民間企業に税制優遇措置を講じる対象として、千葉、富山、三重、鳥取、山口、徳島、福岡など21道府県の24計画を初めて認定した。各計画が実現すると、今後5年間で約6,600人の雇用増加が見込まれるという。
◎1億総活躍国民会議が初会合 ― 政府
 政府は10月29日、1億総活躍国民会議の初会合を開いた。安倍晋三首相が打ち出した「新三本の矢」の具体化に向け、11月末にも緊急対策をまとめ、来年春に具体的なロードマップとなる「ニッポン一億総活躍プラン」を策定する。
 新三本の矢では、「希望を生み出す強い経済」(GDP600兆円)、「夢をつむぐ子育て支援」(希望出生率1.8実現)、「安心につながる社会保障」(介護離職者ゼロ)を掲げたが、初会合で安倍首相は「少子高齢化という我が国の構造的課題に真正面から取り組む」と述べ、「省庁の枠組みを越えた従来の発想に囚われない対策取りまとめ」を要請した。国民会議は、首相を議長に関係12閣僚のほか、民間人の増田寛也元総務相、榊原定征経団連会長、三村明夫日商会頭、土居丈朗慶応大教授、女優の菊池桃子ら15人で構成。
◎国・自治体の「ゆう活」取組状況を発表 ― 政府
 政府は10月30日、今年夏に実施した朝方勤務・早期退庁の「ゆう活」の取組状況を発表した。国は約22万人(中央省庁は約8割)が実施。その結果、約4割が「早く帰りやすい雰囲気が醸成」「夕方の時間帯を活用できた」としたが、「早起きが辛い」(3割)などの回答もあった。また、自治体も合計171団体(41都道府県、16政令市、114市町村)が取り組んだ。岩手、宮城、福島、埼玉、大阪、沖縄の6府県と、仙台、川崎、京都、神戸の4政令市は見送った。実施自治体からは「時間外勤務時間が20%縮減」「家族と過ごす時間に活用できた」などの評価がある一方、「社会との時間のずれで作業能率が低下」「窓口業務や交代制勤務、少数職場では実施が困難」などの声もあった。これを受けて、政府は超過勤務の縮減・職員の早期退庁などの効果があったと評価。来年度は「柔軟な運用で実施者の負担につながらない配慮が重要」とした。
 また、政府は同日、来年度から全ての職員を対象にフレックスタイム制を導入するため、法改正などの準備を進める方針を決めた。今年の人事院勧告を受けたもので、これまで専門職等に限定されていたものを全職員に拡大。特に育児や介護を行う職員には「コアタイム」を柔軟にするなどの配慮をする。

 

(井田 正夫・月刊「自治総研」編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)