地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2015年12月中央の動き


中央の動き


◎都道府県・政令市の給与勧告が出そろう
 都道府県と政令市の人事委員会の2015年給与勧告・報告が11月5日までに出そろった。月給は全都道府県で引き上げを、期末・勤勉手当は、高知県を除く46都道府県で年間支給月数を0.05~0.20カ月引き上げるよう勧告した。勧告通り実施されると年収は平均8,000~ 13 万7,000円アップする。公民較差は、大阪府1.55%、三重県1.46%、鳥取県1.26%など全都道府県で民間を下回った。給与制度の総合的見直しでは、新たに岩手、秋田、群馬、京都、熊本の各府県が取り組むとし、実質的に全都道府県で実施される。また、20政令市では、仙台市と大阪市を除く18市で月給の引き上げ、期末・勤勉手当は横浜市(4.25カ月)を除く19市が4.20カ月への引き上げを勧告。勧告どおり実施されると、年収(19市)は平均3万1,000円~9万2,000円の増額となる。総合的見直しでは、新たに16市が実施するとし、全市で総合的見直しに取り組む。


◎農地転用許可の指定市町村で指定基準 ― 農水省
 農水省の農地転用許可権限の指定基準検討会は11月5日、「指定市町村の指定基準」を決めた。第5次地方分権一括法で農地転用許可権限が都道府県に移譲されるとともに、農水大臣が指定する「指定市町村」にも同様の権限が移譲されるため、同基準を決めたもの。来年4月から手挙げ方式で募集、順次、指定市町村を指定する。指定基準は、①優良農地を確保する目標を定める②農地転用許可等を基準に従って適正に運用する③農地転用許可制度の事務処理体制が整っている― の3点。また、指定市町村は優良農地確保の目標達成状況を毎年、農水大臣に報告するなどとした。なお、地方六団体は「意欲のある自治体は、規模の大小に関わらず指定を受けられる」よう要請している。
 また、厚労省は11月10日の水道事業基盤強化方策検討会に「地方分権改革に基づく都道府県への認可権限移譲の要件」案を提示した。分権一括法で給水人口5万人超の水道事業の認可権限が希望する都道府県に権限移譲されるため、その要件となる「広域化推進の水道事業基盤強化計画」などを示したもの。来年度から「指定都道府県」の申請を受け付ける。
◎地方版規制改革会議の設置推進へ ― 規制改革会議
 政府の規制改革会議は11月12日、「地方版規制改革会議」の設置に向けた取組方針を決めた。同会議では、国の規制改革を中心に審議を進めているが、飲食店や旅館業の営業許可等では都道府県知事等の許可が必要など、具体的な規制内容を自治体の条例に委ねている事例も多い。このため、地方版規制改革会議の設置を各自治体に働きかけることにした。地方版会議は、有識者等で構成、地域住民や企業・関係団体等から提案を受け付け、関係部局等で検討。同検討結果を有識者会議で議論し、改革案を首長に答申するなどとした。なお、同様の会議は、既に栃木県や大阪府・大阪市、静岡県などで設置されている。
 また、厚労省・観光庁は11月27日、「民泊サービスのあり方検討会」の初会合を開いた。急増する外国人観光客や地域活性化に向け「民泊」拡大のルールづくりを進める。旅館業法・消防法など衛生管理や地域住民とのトラブル防止策などを検討、来年夏にも報告をまとめる。なお、先の規制改革会議で有識者が民泊事業の経済効果は10兆円にのぼるとの試算を示した。
◎地域しごと創生会議が初会合 ― 内閣府
 内閣府は11月17日、「地域しごと創生会議」の初会合を開いた。地方で新たな仕事と投資の流れを生み出す方策を検討するため、①官民からの地方創生プロジェクトへの財政支援拡大②地方創生リーダー育成の仕組み構築と地方への普及・展開③ビッグデータなど情報支援強化 ― などの具体策を検討する。来年春に政府の創生会議に報告する。
 また、内閣府は11月10日、地方版総合戦略の策定状況(10月30日現在)を発表した。策定済み団体が、都道府県は38団体(81%)、市町村は728団体(42%)だった。このほか、市町村では308団体(18%)が12月まで、702団体(40%)は来年3月までに策定する。都道府県別にみると、富山、鳥取両県で100%の市町村が策定済みのほか、香川、大分両県でも80%台に。一方、沖縄のゼロをはじめ、群馬、東京、神奈川、愛知、奈良の各都県では10%台と低い。
 また、石破茂担当相と地方六団体の意見交換会が11月18日開かれ、地方側は地方創生事業費の拡充や自由度の高い継続的な新型交付金創設などを要請した。一方、政府関係機関の移転を検討している有識者会議は11月6日、42道府県から誘致提案があった69機関のうち移転メリットが不明など14機関を検討対象外とした。移転機関は来年3月に決定する。
◎TPP関連政策大綱を決定 ― 政府
 政府のTPP総合対策本部は11月25日、「総合的なTPP関連政策大綱」を決定した。TPPを「オープンな世界へ果敢に踏み出す大きなチャンス」とし、「攻め」と「守り」の対策を盛り込んだ。うち「攻めの農林水産業への転換」では2020年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指すとし、次世代を担う経営感覚に優れた担い手育成、国際競争力のある産地イノベーション促進、畜産・酪農収益力強化総合プロジェクト推進、農林水産物の輸出需要フロンティア改革などを進める。一方、「経営安定・安定供給の備え」では、「米」の国別枠の輸入量増加分を国産米の備蓄米として政府が購入。また、牛肉・豚肉の赤字を補てんする「マルキン」制度を法制化する。このほか、中堅・中小企業等の新市場開拓のため国や自治体、商工会などのコンソーシアムを創設し、市場開拓・事業拡大成功率60%以上を目指すとした。
 なお、11月27日に開催された全国知事会議では知事側からTPP対策での要請が相次ぎ、森山裕農相は、「2015年度補正予算で必要額を確保したい」と述べた。
◎一億総活躍で緊急対策を決定 ― 政府
 政府の一億総活躍国民会議は11月26日、一億総活躍に向けた緊急実施対策を決めた。アベノミクス第二ステージに向けた新たな三本の矢のうち緊急に実施すべき課題を盛り込んだもの。同対策は、今年度の補正予算や来年度予算で措置する。また、来年春には「ニッポン一億総活躍プラン」を策定する。
 「希望出生率1.8」関係では、待機児童解消のため2017年度末の整備拡大量を40万人から50万人に拡大して認可保育所整備を前倒しするほか、小規模保育事業所など認可保育所以外の受け皿整備も進める。併せて、三世代同居に向けた住宅建設、賃貸住宅を活用した親子の近居を支援する。「介護離職ゼロ」関係では、特別養護老人ホームの入所待ち解消に向け現行の介護保健事業計画の約38万人以上の整備加速やサービス付き高齢者住宅整備量を12万人分前倒しし約50万人以上に拡大。用地難の都市部では国有地を活用する。さらに、介護人材確保のため離職職員の再就業支援も進める。このほか、「GDP600兆円」に向け、法人税の20%台引き下げや最低賃金時給1,000円を目指すとした。
◎「地方版ハローワーク」制度創設を了承 ― 政府
 政府の地方分権改革有識者会議は11月26日、全国知事会が提案した「地方版ハローワーク」制度の創設案を了承した。年末の「対応方針」で閣議決定の上、関連法案を次期通常国会に提出する。全国知事会は、これまで一貫してハローワークの地方移管を求めていたが、厚労省はじめ経団連・連合などの抵抗で進展がなかった。このため、「実を取る戦略」として新たに都道府県が自らハローワークを設置できる「地方版ハローワーク」制度の創設を提案。併せて、現在、埼玉・佐賀の2県で実施されている「ハローワーク特区」制度の全国展開も求めた。
 現行法でも、自治体は厚労相への届出でハローワークを設置できるが、対象が生活困窮者などに限定されていた。このため、「地方版ハローワーク」が設置できれば、求職者は職業紹介だけでなく、生活資金・住居・子育て支援・福祉など必要な支援を幅広くアクセスできるようになるとしている。なお、同制度が創設されると国と地方のハローワークが併存することになり、役割分担など「二重行政」の調整や、権限移譲を伴わないため財政措置などが課題となりそうだ。

◎分権改革の対応方針案を了承 ― 地方分権有識者会議
 政府の地方分権改革有識者会議は11月26日、今年度の地方からの提案募集方式の「対応方針」案を了承した。2回目の今年度は、地方から228件の提案があり、うち166件の提案に対応する。その割合は73%となる。さらに詳細を詰めた上で年内に対応方針を閣議決定し、来年の通常今回に分権一括法案を提出する。
 提案が実現するのは、サービス付き高齢者住宅に係る計画策定権限等を市町村に移譲するほか、緑地面積率条例制定権限を町村に移譲する。また、都市公園の運動施設の敷地面積の基準弾力化や、地方住宅供給公社が供給する賃貸住宅の賃借人の対象に学校法人を追加。さらに、空き家への短期居住等に旅館業法が適用されない場合の明確化、病院保育事業に係る看護師等配置要件の趣旨を明確化する。
 なお、内閣府は「地方分権改革シンポジウム ― 地方創生で地方分権の果たす役割と今後の課題」を来年1月13日に京都で開催する。


◎政府主催・知事会議を開き意見交換 ― 政府
 政府主催の全国知事会議が11月27日、首相官邸で開かれ、地方創生やTPP対策、来年度予算編成などをめぐり首相や各閣僚と意見交換が行われた。知事側からは、「地方創生なくして一億総活躍社会の実現はない」として、各都道府県が策定した地方版総合戦略に盛り込まれた具体施策を紹介し「頑張る地方」への支援を要請。これに対し、安倍晋三首相は「地方創生が目指すのは、生産性を高め、安定した雇用と賃金を地方で実現すること。予算、税制、規制緩和等の政策を総動員して、目に見える地方創生を実現する」と述べ、新たな支援策を今年度補正予算案に盛り込む方針を示した。政府は「地方創生加速化交付金」(仮称)を1,000億円規模で調整している。また、経済財政諮問会議で提案された「トップランナー方式」による地方交付税算定について「地域ごとに事情が違う」などの批判が出た。
 なお、知事会は同会議の前に開催した全国知事会議で、「地方創生実現のための緊急決議」を採択した。地方創生に向けた流れを緩めないよう要請するとともに、①全ての子どもを対象にした医療費助成制度を創設、子ども医療無料化への国民健康保険の減額措置の廃止②地方拠点強化税制の拡充や政府機関の地方移転の実現③義務教育や高等教育では削減でなく機能強化で対応 ― などを求めている。

 

(井田 正夫・月刊「自治総研」編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)