地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2016年6月中央の動き


中央の動き


◎地方財政めぐり対立意見 ― 財務省・総務省
 財務省の財政制度等審議会は5月18日、「経済・財政再生計画の着実な実施に向けた建議」をまとめた。2020年度までの国・地方プライマリーバランス黒字化の目標は堅持すべきで「手綱を緩める状況にはない」と強調。地方財政については折半対象財源不足が解消するなど財源余剰が生じた場合はプライマリーバランス改善など国の債務縮減にもつなげるべきだとした。また、人口減少に伴う財政需要縮減を地方歳出の総額に着実に反映すべきだとした。このほか、地方税収の決算増収は後年度の地方財政計画に計上するなど清算する仕組み導入も求めた。
 一方、総務省の地方財政審議会は5月13日、「地方税財政改革についての意見」をまとめた。地方は国を上回る歳出抑制努力を続けてきたが、なお巨額の財源不足が生じており、折半対象財源不足が解消しても「地方に財源余剰が生じるとの見解は誤り」だと指摘。さらに、個々の自治体による懸命な歳出努力の成果を国の債務縮減に用いることは地方の改革意欲を削ぎかねず不適当だと批判した。また、トップランナー方式による交付税算定改革については業務改革の状況を踏まえて標準的な経費を単位費用に反映すべきで、3~5年かけて段階的に反映する改正地方交付税法に沿って進めるとし、早急な導入を求める経済財政諮問会議の動きを牽制。併せて、民間委託が困難な小規模自治体など地域実情を踏まえる必要性も強調した。


◎規制改革で第4次答申 ― 規制改革会議
 政府の規制改革会議は5月19日、規制改革に関する第4次答申をまとめた。答申は、自宅等に旅行者を有料で宿泊させる「民泊」を可能とするほか、風力発電の環境アセスメント期間短縮を提案。雇用関係では、同一労働同一賃金の実現に向けどのような待遇差が不適当かなどのガイドラインを早期に策定するよう求めた。また、「地方版規制改革会議」の設置に向け引き続きフォローアップするとした。一方、「地方における規制改革」では、「条例による規制の差異が広域的経済活動の阻害要因となっている」として規制見直しを検討していたが、地方六団体の「憲法第94条(条例制定権)の趣旨に反す」との猛反発を受けて、答申では「結論を得るべく引き続き検討」にとどまった。
 また、政府の産業競争力会議は5月19日、「名目GDP600兆円に向けた成長戦略(日本再興戦略2016)」をまとめた。経済の好循環を民間の本格的な動きにつなげるため、①600兆円に結びつく新たな有望成長市場の創出・拡大②人口減少社会、人手不足克服のための生産性の抜本的向上③新たな産業構造への転換を支える人材強化 ― の3つの方策を掲げた。このため、政府全体の司令塔として「第4次産業革命官民会議」を設置し、IoTやビッグデータ、AI、ロボットなど新たな有望成長市場を創出する。また、「攻めの農林水産業」のため農地集約やスマート農業など、「観光立国の実現」へ地域観光経営の推進や広域観光周遊ルートの世界水準化などに取り組むとした。6月2日に閣議決定した。
◎教育クラウド導入でガイドブック ― 総務省
 総務省は5月20日、「教育ICTの新しいスタイル クラウド導入ガイドブック2016」を公表した。14年度から実施した低コストで導入・運用可能な「教育クラウド」の実証結果をもとに、教育委員会・学校向けに作成したもの。学校ではICTが主体的・協働的、個に応じた教育ツールとして活用されているが、クラウド化によるデータの安全な利活用のほか、時間・場所を超えて校内・校外・家庭や遠隔地でも活用できる、サーバーの維持管理の負担から教職員を解放できるなどのメリットがある。ガイドブックでは、クラウド等の導入プロセスを準備・計画・調達・運用の4段階ごとに留意点などを解説。併せて各地域でのクラウド活用事例も紹介している。
 また、総務省は5月27日から「若年層に対するプログラミング教育の普及事業」の提案募集を開始した。提案を受けて、今年度からクラウドや地域人材を活用したプログラミング教育の実施モデルを実証する。このほか、「ふるさとテレワーク推進事業」も5月13日から提案募集した。サテライトオフィス・テレワークセンターを整備し、地方でも都市部の仕事ができる環境を構築、地方への人・仕事の流れをつくる。なお、自民党のテレワーク推進特命委員会は5月11日、提言案をまとめた。テレワークの普及・啓発のほか、「ふるさとテレワーク」を本格展開するための助成の仕組み検討、企業等の導入支援、導入に資するインフラ整備などを提案。17年度概算要求にこれらの各施策を盛り込むなどとした。
◎女性活躍重点方針2016決定 ― 政府
 政府のすべての女性が輝く社会づくり本部は5月20日、「女性活躍加速のための重点方針2016」を決定した。多様な働き方では、同一労働同一賃金で非正規雇用女性の待遇改善や女性の正社員転換、長時間労働の削減などのほか、公共調達を活用した女性の活躍推進を独立行政法人では17年度から原則全面実施するほか自治体での取組を促進する。併せて、育児・介護休暇等の取得促進や男性の家事・育児への参加促進に向けて経済団体等との連携を進める。また、女性リーダー育成モデルプログラムの作成や女性起業家等支援ネットワークを構築するとした。このほか、女性活躍のための基盤整備として、子ども・子育て支援新制度、待機児童の解消や介護離職ゼロの取組推進、マイナンバーカードでの通称(旧姓)併記を示した。併せて、性犯罪等被害者のためのワンストップ支援センターを各都道府県に設置するとした。
 一方、内閣府が5月31日に公表した16年版男女共同参画白書では、「多様な働き方・暮らし方に向けて求められる変革」を特集。現役世代が「仕事か家庭生活か」ではなく、一人で何役も担えるよう長時間労働や画一的な働き方を変革する社会を実現すべきだとし、その具体例にテレワークを挙げた。
◎少子化社会対策白書を決定 ― 政府
 政府は5月24日、「少子化社会対策白書」を決定した。合計特殊出生率はやや増加傾向にあったが、2014年は1.42と9年ぶりに前年を下回った。また、婚姻率も5.1と過去最低となるなど未婚・非婚化が進行。さらに初婚年齢も夫31.1歳、妻29.4歳、出産の母親年齢も第1子30.6歳など晩婚化・晩産化も進んだ。また、出生率が回復したフランスなど欧州の意識調査と比べると、結婚生活での不安が日本では「お金」がトップなのに対し、欧州では「2人の相性」が高く、希望する子ども数まで子どもを増やしたいかでも、欧州は6割(日本は5割弱)を超えていた。これらを踏まえ、白書は、待機児童の解消など子育て支援施策を充実するほか、若者の雇用安定化など結婚・出産の希望が実現できる環境整備を求めた。さらに、長時間労働の是正や出産直後からの男性の休暇取得促進などの必要性を強調した。
 一方、全国市長会は5月23日、「人口減少社会における多世帯交流・共生のまちづくり」の報告書を発表した。国の責務として多世帯交流・共生のためのビジョン提示や総合的なサービス提供の仕組みづくりなど、都市自治体の役割として地域社会を担う人材の発掘・育成などを求めた。また、全国知事会は5月13日、「少子化対策の緊急提言」をまとめ政府に要請した。結婚支援を官民協働で行う体制づくりや若者の就職・職場定着支援策の充実、待機児童解消と保育士配置の財政措置強化、子ども医療費の全国一律制度の構築などを求めた。
◎国土強靱化でアクションプラン ― 政府
 政府の国土強靱化推進本部は5月24日、「国土強靱化アクションプラン2016」を決定した。国土強靱化基本法に基づく同基本計画の推進のため45施策群ごとに毎年度取り組むべき個別施策を示したもの。先の熊本地震を踏まえ事前防災・減災に資する取組を重点的に推進するほか、昨年の関東・東北豪雨を踏まえ大規模災害のおそれがある市町村で河川管理者・都道府県・市町村等の協議会を設置し、減災目標を共有、住民目線のソフト対策・洪水を安全に流すハード対策などを一体的・計画的に推進する。併せて、事業継続に積極的に取り組んでいる企業等を認証する仕組みも創設するとした。
 また、内閣府は5月31日、「16年版・防災白書」を発表した。少子高齢化で防災の担い手が減少しているため、自主防災組織や消防団のさらなる取組強化や地域住民が集まるグループの活用などを提言。併せて、地球温暖化に伴う気候変動で激甚化する災害に対し、社会全体で災害リスクに向き合う意識改革など国民運動の展開の必要性を強調した。このほか、内閣府は5月17日、初めての「水循環白書」を公表した。水循環基本計画に基づき水循環に関する計画のある自治体がほとんどないことを指摘し、改めて流域の総合的・一体的な管理の必要性を強調した。併せて、自治体が進めてきた水道・下水道・工業用水道事業や、農業水利施設など水インフラは高度成長期に急速に整備され、今後一斉に更新時期を迎えるため、適切なリスク管理と戦略的な維持管理・更新が必要だとした。なお、国交省は4月25日に、「水害ハザードマップ作成の手引き」など内水浸水対策に関するガイドライン等を公表している。
◎消費増税を再延期、骨太方針等決定も延期 ― 政府
 安倍首相は6月1日の記者会見で、来年4月からの消費税率引上げを2019年10月まで2年半再延期することを表明、その理由などを説明した。また、消費増税延期に伴い5月末に予定していた「経済財政運営と改革の基本方針2016」などの閣議決定も6月2日に先送りした。ただ、修正は消費増税に関連する文言の修正にとどめた。「経済財政運営と改革の基本方針2016」で示された地方行財政改革では、窓口業務のアウトソーシングの全国展開、トップランナー方式の対象業務の拡大、公共施設等の集約化・複合化、類似団体比較を含めた住民1人当たりコスト等の「見える化」、コンビニ交付などオンラインサービス改革などが盛り込まれた。また、「ニッポン一億総活躍プラン」でも待機児童解消に向けた50万人分の保育受け皿整備と保育士給与のアップ、「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」では稼げるまちづくり、コンパクトシティや広域連携の推進、集落生活維持のための地域運営組織と「小さな拠点」形成などが盛り込まれた。
 なお、5月23日に開かれた「国と地方の協議の場」で、地方六団体側は地方一般財源の総額確保を求めるとともに、トップランナー方式では「条件不利地域など地域の実情に配慮する」など交付税の財源保障機能を損なうことがないよう求めた。  

 

(井田 正夫・月刊「自治総研」編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)